「オウンドメディアのこれからのこと」と、アース製薬・ANA・KIRINが語る「攻め」のSNS活用術
企業のSNS運用はいまや一般的になり、自前のメディア「オウンドメディア」への取り組みもますます広がっています。また、Instagramの人気の定着、TikTokの台頭、TwitterからXへの移行など、SNS自体も変化をとげる中、社外発信の手法も目覚ましく進化しています。
この記事では、オウンドメディアカンファレンス2023の基調講演とクロージングディスカッションに登壇いただいた、キリンホールディングス、アース製薬、ANAの担当者のお話の一部をお届けします。
※当日の様子はアーカイブ動画をご覧ください。本記事はイベント概要となります。
基調講演:キリン・平山さんが語る、オウンドメディアのこれからのこと
テーマ
オウンドメディア進化論。いま、企業発信の現場で起きていること、これからのこと。
登壇者
平山 高敏さん キリンホールディングス株式会社
オウンドメディアの役割は、「広告・宣伝」から「企業ブランドの育成」に変化
「オウンドメディア」の新しい潮流を切り開いたのは、2019年に始まったトヨタ自動車によるネットメディア「トヨタイムズ」です。「トヨタイムズ」第1回目の記事には、次のように書かれています。
つまり「トヨタイムズ」は宣伝や広告ではなく、企業ブランドを長期的に育成するためのメディアといえます。
もう1つのきっかけが、ユニクロ(ファーストリテイリング)が2019年に創刊した『LifeWear magazine』。「創刊の言葉」に次の一文があります。
『LifeWear magazine』は製品開発の考え方や想いを社会にむけて発信するためのメディアと宣言しており、やはり長期的な企業ブランドの向上と、社会とのコミュニケーションの強化を目指していることがわかります。
キリンホールディングス(以下、キリン)の平山さんは、オウンドメディアには2つの方向性があるといいます。
1つ目は「マーケティング的活用」。顧客の獲得や、ファンとの絆づくりなどがこれに該当します。2つ目は「コーポレートコミュニケーション的活用」。社会とのコミュニケーションを図り、企業への信頼感を醸成することが目的です。
コンテンツ作りのスタンスは「軸足は社内に、目線は社外に」
製品開発にかける想い、ストーリーなどを、広告やプレスリリースで伝え切るのは難しいもの。報道に載ることもあまりありません。その穴を埋め、企業の世界観を伝える役割を担うのがオウンドメディアです。
そして伝えきれていない会社の魅力や想いなど発信すべき「ネタ」は社内にあるはず。だからオウンドメディアを立ち上げる際は、社内にネタがあるか、協力者はいるかの確認が必要になります。
と同時に、オウンドメディアがマーケティングやコミュニケーションの問題をすべて解決する訳ではないことも認識しておきましょう。平山さんはオウンドメディア立ち上げの際は、「本当にオウンドメディアが必要なのか、広告でもできるのではないか?」と何度も自分に問いかけているとのこと。そして、コンテンツ資産(ネタ)が社内にあるとしても、発信の目線や情報を届ける先は、社外に置くことが重要になります。
「軸足は社内に、目線は社外に」。
それがオウンドメディアのコンテンツを作る上での基本的なスタンスです。
「バズ狙い」に走らず、コンテンツの価値を最優先に考える
オウンドメディアのコンテンツには「課題曲」と「自由曲」がある、と平山さんは述べます。
「課題曲」とは、社内のオーダーに従って作るコンテンツのこと。合唱コンクールの課題曲のように、仕様が決められた中で、よりベターなものを目指すイメージです。
一方、「自由曲」とはオリジナリティーを狙うコンテンツ。魅力的なコンテンツを発信し、より社会から関心を持ってもらうことも、オウンドメディアに必要な役割です。
オウンドメディアの場合、そこまでバズ(爆発的な話題性)を狙う必要はありません。バズを狙っても読者に刺さるものではないうえ、オウンドメディアの目的は「長期的な企業ブランドの向上」や「社会とのコミュニケーション」。バズ狙いにこだわると、本来の目的がおろそかになります。
平山さん曰く「オウンドメディアやSNSは『奥行き』であり、『間口(認知)』を狙う広告とは違う」。そしてSNS担当者が考えるべきなのは「誰になんといってシェアしてほしいか」。
「取材対象者にとって代名詞になりうる記事か?」「数10年先もアーカイブになりうるコンテンツか?」「マス広告ではできないことか?」といった問いかけをもとに、本当に価値のあるコンテンツなのか、企業ブランドを高めてくれるのかを判断することが求められます。
「記事がマルチユースできるか」という観点も重要です。予算が限られる中、オウンドメディア用のコンテンツを横展開できれば、費用対効果が高まります。
これらから、オウンドメディアは「タテ(時系列でみた資産性)」×「ヨコ(マルチユースできるか)」の面積で評価すべきと平山さんは述べ、講演を終えました。
※さらに詳細を知りたい方は、「動画を見る」をクリック。アーカイブ動画をご視聴できます。
平山さんの講演内容については、以下の記事もご参照ください。
クロージングディスカッション:アース製薬、ANA、KIRINの「攻め」のSNS活用術
テーマ
アース製薬、ANA、KIRINが語る「反響が絶えない」攻めたSNS活用術
登壇者
稲積 大輔さん アース製薬株式会社
小土井 有咲さん 全日本空輸株式会社(ANA)
平山 高敏さん キリンホールディングス株式会社
モデレーター
徳力 基彦 note株式会社
「後発だったので、あえて攻めた投稿をやってみた」:アース製薬
アース製薬は1892年に創業し、100年以上の歴史を持つ企業です。一般的には虫ケア用品が有名ですが、洗口液の「モンダミン」や入浴剤の「バスロマン」など、多彩な商品を手掛けています。
そのアース製薬では、X(旧Twitter)などのSNSアカウントを、商品ブランド名ではなく、あえて企業名で運用しています。なぜなら、アース製薬の主力商品は虫ケア用品なので、ブランド名でSNSアカウントを運用すると、季節によって投稿内容や数にばらつきが出てしまうから。アカウントの多くを運用しているのがマーケティング総合企画本部の稲積大輔さんです。
アース製薬のSNSといえば、Instagramに投稿された一連の「G(ゴキブリ)目線」の投稿が話題になりました。
「アース製薬はInstagramでは後発だったので、あえて攻めた投稿をやってみた」と稲積さん。Instagramへの投稿だけではバズりにくいため、Xでの発話を意識した投稿内容にしたそうです。
同じく話題になった「アース製薬商品総選挙」は、統一地方選にあわせ、商品の認知度向上を目的としたInstagram企画。選挙ポスターを模した商品画像をInstagramに投稿する一方、ポスターのクオリティが高かったため、もっと世の中に広めようと、本社前に「選挙ポスター掲示板」を設置し、掲示板の写真をXに投稿。本物の選挙カーが前を通ったり、地元の人たちが面白がってくれるなど、かなり効果的だったそうです。
※さらに詳細を知りたい方は、「動画を見る」をクリック。アーカイブ動画をご視聴できます。
「マスクを着用していても、スタッフの顔を見てほしい」その想いからショート動画を投稿:ANA
ANAは言わずと知れた国内屈指の航空会社です。SNS活用においてはショート動画の配信に注力。登壇されたANAの小土井有咲さんは、羽田空港のグランドスタッフから広報部に異動後、SNS・メディアプランニングチームの一員として、ショート動画の投稿を担当しています。
ANAのInstagramはもともと、飛行機や上空から撮影した絶景などの「映え写真」がメインでしたが、現在はスタッフの写真を中心に投稿しています。TikTokを始めたのは2021年。きっかけはコロナ禍でした。
当時、航空会社各社は打撃を受け、少ない時は1機あたりの乗客が15名しかいないという時も。さらに「ソーシャルディスタンス」が求められ、スタッフの接客はすべて「マスク越し」になってしまいました。
どんな人が働いているのか、世の中の人にわかってほしい。コロナ禍でも一生懸命に接客しているスタッフを忘れないでほしい。そうした想いから、ANAはSNSでショート動画の投稿を始めました。
「いまはLCC」の10代にも届く動画を投稿:ANA
ANAではショート動画の投稿先として、InstagramとTikTokをあまり区別していません。あえて言えば、狙っている年齢層と機能で使い分けています。
ANAのメイン顧客の年齢層は40代から50代以上。一方、TikTokを使う10〜20代は、LCC(格安航空会社)に乗ることが多いと考えられ、一見ターゲットではないように思われます。しかし、10〜20代の視聴者もいずれは年を重ねてANAの顧客になるかもしれません。そのような期待を込めて、ANAではTikTok向けにショート動画の投稿を行っています。
若い層を狙い、長崎の動物園「長崎バイオパーク」とのコラボで、モルモットたちが並んで歩くところを乗客に見立てた「ご搭乗風景」という動画をTikTokに投稿したところ、大きな反響がありました。
Instagramは、リール(ショート動画機能)やストーリーズ(スライドショー形式で画像や動画を投稿できる機能)での動画投稿が普及しています。そしてInstagramユーザーは、Xのユーザーのように「検索を使って情報を取りにくる」特徴があるため、ANAではあえてユーザーが検索するような「情報を提供する動画」を投稿していると小土井さんは言います。
また、InstagramはTikTokとは違い、ストーリーズから外部リンク先に飛ぶことができるため、リンク先へ誘導したい動画はInstagramに投稿しています。今はInstagramのストーリーズにはられたリンクからのPV流入が非常に重要になっており、note記事でも、ストーリーズのリンクからアクセスが伸びるケースが増えています。
noteでの発信はあえて「ファンではない人」向け:キリン
キリンの平山さんによると、「キリン公式Instagramのフォロワーの多くが商品のファン」。キリンはマス広告がメインの会社なので、マス広告では伝えきれない商品へのこだわりや飲料のレシピ、開発者の想いなどをInstagramに投稿。雑誌風の読みやすい記事で、受け手の感情を動かし、エンゲージメントを高めてもらうことを目指しています。
一方、noteはあえて「キリン商品のファンではない人」に向けて発信。記事を読むことで、それほど思い入れのない人もキリン商品のファンになってくれることを期待して、メディアを使い分けています。
企業のSNS活用というと、大手家電メーカーSHARPの公式“Twitter”アカウント「シャープさん」が、80万以上のフォロワーを集めて話題になったことがあります。しかし現実的には、「シャープさん」のようなSNS担当者を確保するのは至難の業。また、昨今は炎上によるレピュテーションリスク(ネガティブな評価が広まり、企業の信用やブランド価値が低下するリスク)もあるため、攻めた投稿をしづらいのが現状です。
であるならば、企業のSNSアカウントはバズを狙うよりも、企業の価値を高める投稿、平山さんの言う「企業の人格を表現する投稿」が大事になります。
またSNSは、テレビCMなどのマス広告が狙う初期・認知段階層と、デジタルマーケティングが狙う最終・購買促進段階層の中間にあたる、「ミドルファネル」へのアプローチに真価を発揮します。ミドルファネルとは「検討段階にある層」。この層に向けた「企業の人格を表現する投稿」が、現状での企業オウンドメディア・SNSの活用ポイント、とnoteプロデューサーの徳力も語ります。
*「ミドルファネル」の概念については「Instagram、TikTok、LINE、note担当者が明かすオウンドメディア運営の秘訣」のInstagramのパートを参照(公開予定)
オウンドメディア・SNS運用で注意したほうがいいこと
オウンドメディア・SNS運用で注意すべきこととして、アース製薬の稲積さんからは「フォロワーに何を提供できるのかを明確にする」、ANAの小土井さんからは「会社としての投稿が誰かを傷つけていないか」など、コンプライアンスや正確性を注意しているとお話がありました。キリンの平山さんからは「運用担当者がSNSを日常的に使っていることが最重要」というアドバイスも。
※さらに詳細を知りたい方は、「動画を見る」をクリック。アーカイブ動画をご視聴できます。
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text by 名古屋剛