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「数字にあらわれない魅力」にこそ本当の価値がある——手作りならではのよさで勝負する「白岳しろ」のnote戦略

「ブランディングは強化したいが、予算・人員には限りがある」。
そんな悩みを持ちながらも、少人数でnoteを運用されている企業は多いのではないでしょうか。

熊本県の高橋酒造さんは、明治33年(1900年)の創業から120年以上「白岳しろ」などの本格米焼酎を製造・販売する酒類メーカーです。

noteを活用した広報・ブランディングにも積極的に取り組まれており、身近な話題を深く掘り下げるコンテンツは少しずつ話題を呼んでいます。

高橋酒造さんの社員数は76名。決して大所帯とはいえませんが、人手が限られる中でも週1回の記事投稿を欠かすことなく継続しています。

自社ブランドの魅力は「社員一人ひとりの個性や人となり」と信じる高橋酒造さん。多くの記事で社員さんの協力を仰ぎながら、その輝きを最大限伝える記事を発信しつづけています。

今回は記事作成で工夫しているポイントや、記事を継続して投稿するコツなどを伺いました。

ここでは2022年5月30日に開催された「note proミートアップ」イベントの内容を元に、ブランドストーリーをnoteで発信するコツを紹介します。

note pro ミートアップとは?
note proを活用する法人クリエイターのみなさんに向けて毎月開催しているイベント。法人クリエイター同士がnoteを運用する上での学びや悩みを共有したり、社外での横のつながりをつくることで、よりnoteを活用いただくことを目的にnote proユーザー限定で開催しています。


コンセプトは「幕の内弁当」

高橋酒造さんのnoteには、ユニークなコンセプトがあります。
それは、「幕の内弁当を目指す」というもの。

「幕の内弁当って、ハンバーグやから揚げのような人気のおかずもあれば、ひじきの煮物みたいな地味なおかずも入っていますよね。

それと同じで、うちのnoteも話題になりそうな記事ばかり狙って投稿するのではなく、会社として伝えるべき内容もしっかりと記事にしていくことをコンセプトにしているんです。たとえ面白くても、同じような記事ばかりだとどうしても飽きがきますし、読者も偏りますからね」(松尾さん)

高橋酒造さんのnoteを担当しているのは、ブランド戦略室の松尾太郎まつお たろうさんと、生産管理部の中山治世なかやま はるよさん。企画・取材から撮影・執筆まで、すべて2人で担当されています。

ブランド戦略室の松尾太郎まつお たろうさん

松尾さんはもともと人材系の会社で営業をしていました。記事制作やメディア運営については手探りだったものの、取材やヒアリングに対しては過去の経験から特に抵抗がなかったと話します。

生産管理部の中山治世なかやま はるよさん

一方の中山さんは元・雑誌記者。取材や記事の発信については経験がありました。

note担当になったきっかけは、常務からの突然の声がけでした。「何かあったら相談に乗るので、まずはnoteで会社のことを発信してみましょう!」という一言から白岳しろのnote運用は始まったそうです。

2人ともオウンドメディアの運営自体が初めてでしたが、自分たちで作る企画に理解を示してくれる経営層の協力もあり、「絶対にいい発信をしたい」という想いを持ってnote担当を引き受けたそうです。

そうして始まった高橋酒造さんの「白岳しろ」note。

高橋酒造さんは「白岳しろ」noteの開始以来ずっと、週1回、月4本の記事投稿を続けています。その意図は何でしょう?

「1本のいい記事を書くことよりも、継続して記事を更新することのほうが大事だと考えているからです。

noteのよさって、プラットフォームとして多くの情報発信者が集まっているところではないでしょうか。企業規模や予算の大小ではなく、記事のよさのみで評価されるフラットな『場』が魅力だと感じています。

だからこそ、われわれのような全国的には知名度が高いとはいえない会社でも、noteという土俵の上ではいい記事を一つでも多くストックすることで、絶対に目立つことができるチャンスがあると思ってたんです」(松尾さん)

コンスタントに記事を投稿するためのコツは、「数字」を追いすぎないこと。短期的なPVやスキを意識するのではなく、長期的に記事を積み重ねて白岳しろのnoteが魅力的な場へと変化していくことを大事にされています。

毎週コンスタントに記事を更新することで、結果的に広く読者を増やすことができると信じて取り組んでいるそうです。

その記事は、社外の人が読んでも面白い? 「徹底した読者目線」を貫く

もともと松尾さん自身が熱狂的なnoteの読者でした。その読者体験から、松尾さんの導き出した自社noteの方向性が「徹底した読者目線」。

「企業宣伝っぽい投稿って、個人的にはあまり『面白い』と感じていませんでした。なので、高橋酒造として宣伝になるかよりも、まずは記事を読んだ人に満足していただけるかという視点を一番大事にしてます。

自分が社外の人間だったとしても、面白いといってもらえるような魅力的な文章を書きたいんですよ。そのために、noteで人気のある記事や、文章の書き方の本をたくさん読みました」(松尾さん)

週1更新という目標を立てたため、記事は一ヶ月先まで常にストックがある状態にしている

記事の書き方にも、高橋酒造さんらしいこだわりがつまっています。

「うちはお酒のメーカーなので、一般の方からすると、少し専門的だと感じるテーマの記事もあります。

でも、自社や本格米焼酎について少しでも身近に感じてもらいたいので、できるだけわかりやすいフレーズで説明したり、専門用語を省いたりして、『全くお酒のことを知らない人でもわかる』ような記事作りを心がけているんです」(松尾さん)

「なぜ」を突きつめることで、「ストーリー」が見えてくる

特にインタビュー記事の場合、些細なことでも「なぜそうなっているのか」を突きつめていくと、その人の最後のこだわりみたいなものがみえてきます。

社員インタビュー企画「はたらく、はくたけ」シリーズ第1回の「商品加工のプロフェッショナル 徳富冴希が語る『やりがい』と『熱帯魚』の話」もそんな記事のひとつ。この記事は商品の外箱を組み立てる仕事内容についてのインタビューなので、一見すると派手さがないように映ります。

しかし、「なぜ」という問いを通じて徳富さんを深く掘り下げていくと、彼女が子どものころから負けず嫌いで、難しい課題に直面すればするほど燃えるタイプということがわかってきました。

徳富さんは本来シャイな性格で、オファーを受けたときは少し戸惑われたそうですが、記事に出演されたことによって自分の仕事に対する充実感が高まり、家族や同僚からの反響もかなり大きかったとのこと。

「一人ひとりの内面を丁寧に掘り下げていくことによって、魅力的なストーリーが現れてくると思っています。そうした自社を取り巻く熱い物語を紹介していくことで、白岳しろも魅力的なブランドだと思ってもらえるんじゃないかと。

最初からブランディングに役立つ記事を作るというよりも、いい記事を作っていくことで、結果的にブランドに対して好意的な評価をしてもらえる。その順番が大事なんだと思います」(松尾さん)

「嬉しかったのは、インタビューを受ける社員のモチベーションも上がったことです。『私って、こんなすばらしいことを考えていたんですね』と、自らの仕事に対する振り返りや自信につながったと言ってもらえました」(中山さん)

また、高橋酒造さんのnote記事は、すてきな写真がたくさん使われている点も特徴的です。写真撮影を担当されている中山さんによると、「被写体が構えない」ことを大事にしているとのこと。

「松尾さんがインタビューしているあいだに、とにかくたくさん写真を撮るようにしています」(中山さん)

「写真はすべてスマホで撮影しています。スマホで撮影するほうが被写体の方も緊張しなくて、逆によかったりするんです」(中山さん)

最初は表情が硬かった人も、話に熱が入ってくると、だんだんいい表情になっていきます。そこを逃さないように連写モードで撮り続けるのです。1カットのために何百枚も撮影することも。

「『日本で1番白岳しろを運んできた男が、35年以上見届けてきた白岳の歴史と令和2年7月豪雨からの復興についてこれまた熱く語ってくれた』という記事では、何百枚も撮影した中から厳選した『奇跡の1枚』を使っています」(中山さん)

社内を巻き込むコツは、「記事で返す」こと

このように、noteの記事作成の過程で、社員の人物像を深く掘り下げ、魅力を引き出すことに成功している高橋酒造さん。社内をうまく巻き込むコツは「記事で返す」ことだといいます。ここでいう「記事で返す」とは、note取材に協力してくれた社員の方が「この記事に出てよかった!」と思ってもらえるようないい記事を書くこと。

「インタビューを受けた側にとっても満足度の高い記事を出すことができれば、社員自ずから他の人にnoteのよさを発信してくれるようになります」(松尾さん)

そして、記事公開のタイミングを固定化していることもポイントです。

高橋酒造さんでは、記事公開を毎週水曜日の11時30分に固定しています。
そうすることで、12時のお昼休みに社員のみなさんが記事を読む習慣が徐々に生まれているとのこと。社内システムの掲示板にも記事公開のお知らせが掲載されるため、社内では「毎週水曜日はnoteの日」と認識されはじめているそうです。

また、投稿タイミングを固定化することで、記事公開後のPDCAがスムーズに回せるようになりました。

まず昼休みに投稿することで、社員からのフィードバックを集めやすくなります。お昼休みの間にnoteを読む、という社員のルーティーンを活用し、気がついた時には直接記事の感想を聞いて回っているのだそう。

特に、記事に登壇した社員や部署の人たちにはこまやかにヒアリングを実施して率直なフィードバックを受け取り、次記事への改善点を集めているそうです。

定量的な評価はnote proの機能のひとつ「アナリティクスβ」のPVで測っています。文字数にも影響を受ける読了率ではなく、アカウント内の過去記事と比較がしやすいPV数によって、うまくいった理由とうまくいかなかった理由を細かく分析しています。

例えば「蒸留酒って知ってる?」という記事は、「白岳しろ」noteの全記事でも2番目にスキが多い記事です。その理由を高橋酒造さんでは、糖質・プリン体・正月太りなどのキーワードが、お酒が好きな人に引っかかったからではないかというと分析をしたそうです。

逆に自信があったにも関わらずPVが伸びなかった記事については、タイトルに「焼酎粕」などの一般的でないワードを並べたことで記事が堅苦しくなりクリック数が減ったのではないかと振り返られています。

「PVについては8割方、タイトルとサムネイル、そして書き出しの3行で決まるという印象を持っているので、そこは工夫しています」(松尾さん)

ちなみに、高橋酒造さんのnoteの目を惹きつけるすてきなサムネイルは、松尾さんがパワーポイントで作っています。

「サムネイルはわかりやすいこととインパクトが大事だと考えているので、『note pro運営がすてきと感じるnoteまとめ』を見て、読まれている記事のサムネイルを研究しています」(松尾さん)

社員の魅力を深掘りした記事作成、更新タイミングの固定化や読まれるサムネイルのコツ——など、オウンドメディア運営の工夫を披露して下さった松尾さん。最後に「社内広報は、まず自分たちも楽しむことが大事」という言葉を残してくれました。これからも魅力的な記事を発信してくれることでしょう。

まとめ

高橋酒造さんのnote運営は、自社の魅力を幅広い読者にわかりやすく伝える工夫が満載でした。特に印象的だったポイントを以下にまとめています。また、ご自身でも半年間のnote運営を振り返った記事をまとめているので、そちらもぜひ参考にしてください。

ポイント

  • 読者の視点に立つことで「読んで面白いコンテンツ」を追求する。

  • まずは記事更新を続けることで読んでもらう機会を増やし、徐々にメディア自体が読者に応援してもらえるような状況をつくる。

  • 広く読んでもらうには、タイトル・見出し画像・書き出しの3行を工夫する。

  • 発信することの大切さを伝えながら、協力してくれた人にきちんと報いる記事をつくっていく。

大規模な投資や専門スタッフがなくても、すてきな社員のストーリーに真摯にスポットライトを当てることで、ブランドの魅力を表現することができる。高橋酒造さんのお話は、そんな気づきに満ちていたと思います。

皆さんもぜひ、noteを活用したブランディングの参考にしてみてください。

interviewed by 野口 郁弥 text by 名古屋 剛

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