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コアなファン=親友をつくるZIPAIRのブランド戦略とは? 段階的なコンテスト開催でファンを育む

多くの広報担当者が頭を悩ませる、オウンドメディアを使っての自社ブランド力のアップ。コンテンツ内容がサービスの宣伝にかたよりすぎたり、他社と横並びな内容になったりすることも少なくありません。社外の読者にしっかり刺さる、自社ならではの魅力を発信するにはどうすればいいのでしょうか。

株式会社ZIPAIR Tokyo(ジップエア トウキョウ:以下、ZIPAIR)さんは2018年にスタートしたJAL系列のLCCの航空会社。バンコクやホノルル、ロサンゼルスなど5拠点と日本をつないでいます。顧客にちょうどいいと感じてもらえるサービスをオプションで追加できる、LCCの中でもいわば「オーダーメイド式」を採っているのが特徴。SDGs、サステナビリティを意識した取り組みにも注力しています。

こうした自社のサービスの強みやプロジェクトへのこだわり、想いを、各社員の目線を生かしてnoteで発信しているZIPAIRさん。これまで取り組んできた記事のコンセプトや戦略、加えてnoteクリエイターを巻き込んだ投稿企画についても伺いました。キーワードは「親友」です。

ここでは2022年7月27日に開催された「note proミートアップ」イベントの内容から、SNS運用管理担当の関口和生せきぐちかずおさん、客室乗務員とnote担当を兼務している山本花菜子やまもとかなこさんに伺ったnote運営の戦略を紹介します。

note pro ミートアップとは?
note proを活用する法人クリエイターのみなさんに向けて定期的に開催しているイベント。法人クリエイター同士がnoteを運用する上での学びや悩みを共有したり、社外での横のつながりをつくることで、よりnoteを活用いただくことを目的にnote proユーザー限定で開催しています。


Twitterのその先、
読者とより深い仲を築くためのnote

ZIPAIRさんのnoteでの目標は、自社のコアなファンを増やすこと。お客さま像としてかかげる「クリエイティブに人生を楽しみたい」「自分の納得したサービスだけを購入する」という人たちに向けて、情報を発信する場所としてnoteを選びました。

社外へのチャンネルは、自社サイトとnote以外に、Twitter(@ZIPAIRTokyo)とYouTube(ZIPPY CLUB)を使っています。Twitterは「瞬間的な出会い」として、まず社名を知ってもらう場所としてとらえているとのこと。そこから「何をやっているかさらに知りたい」人がたどり着く先として、noteを活用しています。自社サイトは、すでにZIPAIRを知っているお客さまがたどり着く情報サイトという位置付けです。

ZIPAIRのTwitter
ZIPAIRの公式Twitter「ZIPAIRTokyo」
ZIPAIRのYouTubeチャンネル
ZIPAIRの公式YouTubeチャンネル「ZIPPY CLUB」

一概にコアなファンといっても、企業と相対するお客さまのあり方はさまざま。ZIPAIRさんがnoteで情報を届ける先として想定したのが「親友」という立ち位置です。知らない人同士が互いの性格を知って深い仲になっていくように、名前を知っているだけだったZIPAIRという「人」の「生活」や「性格」を、読者がnoteを通じて知り、信頼を深めていく。そんな方向性を目指しました。

執筆においては社内の各部署の社員から広く寄稿してもらうスタイルをとりました。社外のみならず、社内からも好んで読まれる「社内報」の役割も果たしているそうです。

さらにはコアなファンの「予備軍」、取引先の企業、そして就活生といった、社外にいる多様な読者に届くコンテンツ作りを目指しました。運営に関しては、JALの広報部門の子会社であるJALブランドコミュニケーション(以下JBC)と連携しながら共同で行なっています。

関口和生さん
株式会社ZIPAIR Tokyo SNS運用管理担当の関口和生さん

意識しているのは、登場する社員の人となりが感じられる記事づくり

ZIPAIRのnote記事のカテゴリーは約10種類、大別すると以下の3つに分かれます。

1つ目は、会社としてのメッセージ・ビジョンを伝えるためのカテゴリー。新しい航空会社であるZIPAIRさんが何を考えサービスを提供しているかを届けます。これは社内外の全読者がターゲットです。

2つ目はサービス、スタッフ紹介です。おもに「コアなファンの予備軍」向け記事ですが、単なるサービス紹介にとどまらず、携わったスタッフのストーリーも絡めるようにしています。野菜の直売所でみられる「生産者の顔」のような、人となりや息遣いを感じられるエピソードをnoteにうまく盛り込んでブランディングにつなげているとのこと。

3つ目が「就航先の紹介」で、こちらは就活生向けをイメージしています。このカテゴリーは「コロナ禍であっても旅行熱を絶やさないように」という同社の想いを伝えるためのもの。スタッフが今まで旅をしてきたなかで一番心に残る旅を紹介する記事などを用意しています。

こうした記事を月に3~4本、各カテゴリーがまんべんなく取り上げられるように更新しています。

独自性ある面白い記事ネタは、多様な現場から直に収集

記事の執筆はJBCとの二人三脚。取材はおもに同社が担当し、撮影などほかの業務はZIPAIRさんが手がけます。

記事企画は、両社メンバーが月一で行なう編集会議で決めます。ZIPAIR側が「ユニークなサービスや働き方をしている人」といった面白そうな企画のタネを事前に集めてもちこみ、話し合ってテーマを決めています。

実はこの企画のタネの集めかたがユニーク。ZIPIAIRさんのキャビンアテンダントには地上職とフライト業務を兼務する制度があり、その中の数名がSNSの運営も行なっています。職場が1つに限定されないので、制度とも相まって、あらゆる場面での面白い人物や事柄の情報が集まりやすくなっているとのこと。インタビュー相手の性別や職種がかたよらないよう、バランスには特に気を配っているそうです。

オフィスの様子
オフィスの様子

また、「社員が語る」タイプの記事の作り方も、書き手の「顔」が見えるように工夫しています。大まかな企画書をその社員に渡して自由に原稿を書いてもらい、後から構成をブラッシュアップするのですが、個性が消えないように文体や表現を残すようにしています。人によってカジュアルな語り口だったりと性格がよく文章に表われ、読者との距離がぐんと近くに。先ほどの「生産者の顔」的な魅力を訴求しやすいやり方といえます。

さらに重要視しているのが「よその航空会社と置き換えられない魅力」の発信です。航空会社はもともと商材の力が強く、各社にコアなファンがつきやすい業界だとか。そこに甘んじないよう、「主語」を自社から他社に替えても成立するような記事の企画には手を出さず、「ZIPAIRだからこそ語れる」コンテンツに挑んでいます。

記事への定量的な振り返りも編集会議の中で行ない、次の企画への参考としています。記事カテゴリーごとに、それぞれに適したスキ数や読了率の目標値を設定。目標値を超えて成功した記事をピックアップし、なぜ成功したかを分析し次の記事に活かすことで、記事のクオリティをどんどん上げていっているそうです。

山本花菜子さん
株式会社ZIPAIR Tokyo 客室乗務員 山本花菜子さん。note運営も担当

社員に支持されるストーリーは、
社外でも反響が大きくなる

ZIPAIRさんがnoteに取り組む中で痛感したのが、「社員に支持されるストーリーは、社外からも面白いと思ってもらえる」ということでした。

例えば、特に反響があったシリーズの1つである「空の仕事人」。どんなスタッフが働いているのか、航空会社の仕事の裏側を知ってもらう連載です。LCCではどうしても、ユーザーから漠然とした不安のようなものを感じることもあり、それらを払拭したいという思いから始めたといいます。

特に、機長でもあり取締役でもある吉澤賢一さんの書いた記事、「安全な空の旅とは、乗客の記憶に残らないこと。」の反響は大きいものでした。おりしも、新型コロナウイルスの影響で旅客便就航ができない時期で、社内からはこの記事を見て「仕事への熱を取り戻した」という声も。結果、この記事は社外の多くの読者にも受け入れられました。また、運営チームは身内である社内のメンバーに支持されることの大切さを知ったとのことです。

このように、社員の自社に対する愛が読者にも伝わるのが、ZIPAIRさんの目指すnoteのあり方と言えます。最近では一般のお客さまだけでなく、就活生や取引先の方々が読みにきてくれるようにもなり、想定を超えた読者の広がりを見せています。

またステークホルダーの方から、「ZIPAIRさんのnoteがすてきだったので、うちの会社でも真似してアカウント立ち上げてみました!」とご報告を受けたこともあったそうです。

180度リクライニングできるFull-Flat Seat
LCCの中でもいわば「オーダーメイド式」を採っているZIPAIRさん。写真はビジネスクラスのように180度リクライニングできるFull-Flat Seat(6歳以下は利用できません)

コアなファンを育んだのは、
計画的なnoteコンテストまでの”道のり”

ZIPAIRさんのnoteは「ZIPAIRを親友として見てくれる人とのコミュニケーションの場」の創出を目指しています。そのため、note公式コンテストにも取り組んでいます。

note公式コンテストとは、noteと企業や団体などが共催して、noteのクリエイターに向けて誰もが投稿できるコンテスト形式で作品を募集する企画のこと。クリエイターの才能を発掘する機会であると同時に、企業や団体にとっては、自分たちが大切にしているテーマでクリエイターとつながり、みんなで深く考えるきっかけとなるものです。ZIPAIRさんもnote公式コンテストを開催。一定数のエントリーを集め成功を収めました。

ただし、一足飛びにnote公式コンテスト開催に至ったわけではありません。そこまでに、1)記事の投稿2)自主コンテストの開催3)note公式コンテストの開催、という3つの段階をふんできました。

ちなみにここでいう自主コンテストとは、noteとの共催ではなく、企業や団体、個人がハッシュタグ(#)などを利用して独自に行なう投稿企画のことです。noteでは「お題企画」と呼んでいます。参加者は記事の公開設定の際に募集テーマにハッシュタグを付けて投稿することで、誰でもかんたんにコンテストに応募できます。

なお、主催者は投稿企画の告知記事に、応募テーマとは別に「#note投稿企画」のハッシュタグを付けておくことをおすすめします。これによりnote側が自主コンテスト開催を把握できるので、note公式Twitterやnoteの各カテゴリページトップなどさまざまな場所で紹介することができます。

note公式コンテストを開催するまでの3ステップ

(1)
まずはnoteを始めた直後から多くの記事を投稿して、読者が継続的に読みにきてくれる土壌をつくりました。

(2) 
「ZIPAIRのnoteが好きな人」がある程度みえてきた状態で、自主コンテスト(お題企画)で小さくチャレンジ。noteの認知拡大だけでなく、投稿してくれた読者との双方向のコミュニケーションのきっかけをつくります。

noteには旅行の記事を書くクリエイターも多いので、自主コンテストでは「#自分史上最高の旅」と銘打ちコンテストを開催しました。

名も知らぬ企業がいきなり「記事を投稿してください」と呼びかけるより、知り合いや好きなクリエイターの記事を通して投稿企画を知るほうが、参加ハードルが低くなる。そう考え、まずは投稿のお手本となる記事を書いてくれる方を探すところから始めました。noteで人気のクリエイターから、社内のキャビンアテンダントさんまで、幅広くお声がけしています。

そんなバラエティにとんだお手本記事を通して「これを読んでくれたみなさんも、自分の旅についてつづってみてくださいね」と呼びかけました。結果、応募期間1ヶ月で50本の投稿が集まり、企画の第一段階として手応えをつかめたといいます。

(3)
満を持して、note全体に広く周知できるnote公式コンテストを開催し、より多くの読者とのつながりをつくりました。継続してZIPAIRを好きでいてくれる親友、すなわちフォロワーを増やすことが目標。テーマは「#一度は行きたいあの場所」としました。

結果、フォロワー数は1500件の純増。また、数が増えただけでなく、フォロワーの幅も広がったそうです。具体的には、今までは一部の記事カテゴリーに、読了率やスキ数が集中して高かったのが、他カテゴリーも広く好まれるように。これまでコンテンツが届いていなかった層にも、記事が届くようになった実感をえられました。

今後は「ハワイ」など特定のテーマに沿って深い知識を持っているひとに参加してもらうような、より発展的な読者投稿のあり方を検討中です。ハワイの食べ物やロケーション、音楽といった限定されたテーマについて語り合える一種の「場」についてもアイデアをふくらませています。

自分たちが一方的に発信するだけではなく、読者からの投稿も後押しすることでコアなファンを育んでいるのが、ZIPAIRさんの取り組みと言えるでしょう。コアなファン=「親友」に自社をもっと知ってもらい、信頼を深めてもらうには、読み手と書き手が共存するnoteが最適だったのです。

まとめ

「空の仕事人」シリーズのように、社員の自社への「好き」を発信することが、ファンからの「好き」の醸成にもつながることになります。ZIPAIRさんの「親友」戦略は、自社ブランド向上を目指す際の、有効なnote活用法なのかもしれません。

今回、特に印象的だったポイントを以下にまとめました。

ポイント

  • コアファン=親友ととらえ、noteは親友に自分を知ってもらう場と考える。

  • お客さまの「好き」を生むのは、社員の自社への「好き」。社員の好みや魅力をnoteで発信するのがおすすめ。

  • 読者をまきこむ投稿企画は、今まで接点がなかった新しい読者を呼びこむきっかけになる。

interviewed by 野口 郁弥

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