採用とブランディングを両立!パナソニック コネクトのオウンドメディア成功事例に迫る
オウンドメディアを立ち上げた目的や、運営を続けていくための成功ポイントについて、企業担当者にインタビューをするイベント「実践企業に学ぶ オウンドメディア成功の秘訣」。
今回はパナソニック コネクト株式会社の公式オウンドメディア「gemba(ゲンバ)」を担当している鈴木恭平さんがゲストです。コーポレートブランディングだけでなく、採用にも貢献するオウンドメディア運営を目指している「gemba」。
オウンドメディアをどのように位置づけ、会社に貢献しているのか。具体例を交えながら、成果を出すためのオウンドメディア活用法についてお話を伺いました。
社名変更時にリニューアルをしたオウンドメディア
——パナソニック コネクトのオウンドメディア「gemba」の立ち上げの経緯からくわしくお聞きできますか?
鈴木さん(以下、鈴木) 「gemba」(旧:「GEMBA」)は2018年に、サプライチェーンマネジメント(SCM領域)に特化した情報を発信するメディアとしてスタートしました。当時、日本では横断的にSCMを取り扱うメディアがなかったので、製造・物流・流通・小売までのトピックを専門に扱うWebマガジン型のオウンドメディアとして立ち上げたんです。
その後、2022年にパナソニック コネクトが独立したタイミングで、会社が「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」というパーパス(企業の存在意義)を制定しました。その流れでgembaもパナソニック コネクトの公式オウンドメディアにリニューアルし、コーポレートブランディングに関する発信へシフト。現在のgembaは、当社のパーパスを体現する役割を担っています。
鈴木 リニューアルに際しては、オウンドメディアの重点領域として、「現場」の探求者たち、私たちの「現場」、「現場」のイノベーション、サステナビリティの「現場」、ソリューションと「現場」という5つのカテゴリーを定めました。この領域に沿ってコンテンツを企画・発信し、パナソニック コネクトがどのような企業なのかを伝えていく方針です。
——この5つの領域はどのように策定したのでしょうか?
鈴木 私たちの会社は一言でいうとBtoBソリューションを提供する企業ですが、外からみると「どんな会社なのか分かりづらい」という課題がありました。そこでブランドパーソナリティ(※1)をつくることで、それらが解決できるのではないかと考えたんです。
※1 企業やサービスのブランドが持つ固有の特徴や魅力を、人間の性格や特性に例えて表したもの
具体的な方法としては、まずは私たちがふだん大切にしているキーワードなどを洗い出して、社内向けのAIアシスタントサービス「ConnectAI」に情報を入れました。その後、AIが考えた文章を人間が修正する作業を何度も繰り返し、「現場を探求する」といったキーワードを導き出したんです。そのキーワードを軸に、私たちがお客様に伝えるべきテーマは何なのかを考え、5つ策定した流れです。
業務提携発表を立体的に伝えた記事が好評
——オウンドメディアで手応えを感じた記事や企画について教えてください。
鈴木 今年3月に、物流倉庫で利用するハードウェアなどをつくるラピュタロボティクス社と弊社が業務提携を発表した際の一連の企画を挙げます。
この業務提携の背景には、物流業界で社会問題とされていた「2024年問題」を解決へと導くための「物流倉庫内の効率化」という目的がありました。
——「2024年問題」は聞いたことがあります。2024年4月1日に施行された「働き方改革関連法」によって、トラックドライバーの年間時間外労働時間が制限されるなどのことから、
ドライバー不足といった問題も深刻化したとか。
鈴木 その通りです。私も当時ニュースなどで2024年問題を知って、「いよいよドライバーに残業規制が入り、人手が足りなくなるんだな」と認識していたのですが、弊社の専門家から意外な話を聞いたんです。実は、そもそもドライバーが残業してしまう一番の要因は、「なかなか倉庫から荷物が出てこないことなんです」と。
——なるほど。ボトルネックは別にあって、ドライバーが荷物の受け取り時に、無駄に待機しているなどのアイドルタイムが存在しているんですね。
鈴木 そうなんです。このことから、ドライバー不足だから人手を増やすのではなく、「無駄な時間をなくせばいい」ということ、つまり「トラックの荷待ち時間の大幅削減」が、2024年問題を解決するための真の課題であると弊社は考え、ラピュタロボティクス社と業務提携を開始することになりました。このような背景から、今回は業務提携を発表するだけでなく、この真の課題を世の中に伝えるべきではと考えたんです。
これはブランディングなども一体になった統合マーケティングコミュニケーション(IMC活動)(※2)として展開することにしました。
※2 各接点において伝えるべきメッセージを統一的に調整し、一貫性を持たせて総合的に計画すること
その中でオウンドメディアでは、この内容を普通に発表しても、記者やお客様にも伝わりにくいという課題があったので、ラピュタロボティクス社との業務提携を発表をする前に、ネタバレをするような記事を事前に公開したんですよ。
——オウンドメディアにそんなつかい方があるんですね。実際には、どのような内容を公開したんでしょうか?
鈴木 まずは発表の背景となる、当社のサプライチェーン領域への取り組みをCTOのインタビュー記事で公開しました。ネタバレになるので具体的な部分までは触れないものの、今後私たちは何を目指していきたいのか、その全体像をお伝えするような内容です。
鈴木 事前にCTOインタビューの記事を資料に組み込み、発表に至るまでの背景をお伝えした甲斐もあってか、記者会見当日は多くのメディアに業務提携を取り上げていただき、100以上のメディア露出を得ることができました。記事を組み込むことで、記者の方々により深く取り組みを理解していただけたと感じます。
発表後は、技術的な側面を弊社のエバンジェリスト(※3)とラピュタロボティクス社CEOの対談記事・動画を作成し、gembaで公開。さらにこれらの記事を広告でも展開したり、社内の反響は開発メンバーの座談会形式の記事で伝えたりなど、多角的にフォローしました。
※3 主にIT企業において、自社の技術製品やサービスの特徴や利点を、専門知識を持ちつつも中立的な視点から、一般消費者や顧客にわかりやすく説明する職務
鈴木 最後は本提携をきっかけとした協業パートナーの募集記事を配信。一連の記事を通して、パナソニック コネクトのサプライチェーン領域への取り組みを、オウンドメディアという母体を中心に立体的に伝えることができました。オウンドメディアとうまく連動させることで、プレスリリースでは伝えきれない奥行きのある情報発信ができたのではないかと考えています。
——事例からも伝わるように、パナソニック コネクトさんはオウンドメディアの位置づけをとても立体的に行われていますよね。
鈴木 そうですね。今回の例では3本程の記事をつくったのですが、企画をするときは「塊」で考えるように心がけています。点で企画するのではなく、「このときにはこういう情報が必要だよね」というのを先手先手で企画していく。そうすることでブランドやPRチームと連携しやすくなったり、反対に連携してもらいやすくなったりすると思うので、そこは意識して組み立てているかもしれません。なるべくオウンドメディア単体で効果を出そうと思わないようにしています。
総合的な観点から効果測定をしたい
——オウンドメディアの効果測定はどのように考えていますか?
鈴木 現在のオウンドメディアについては、これからどのような指標を見ていくかを検討している段階です。リニューアルしたてということもあり、まだデータが十分に集まっていないので、具体的な成果をお伝えできる段階ではありませんが、大前提としてお話しさせていただきたいことがあります。
私はデジタルマーケティング研究機構のソーシャルメディア委員長をしており、その研究活動の一環として、効果測定に活用できるKPIのフレームワークを作成しました。
鈴木 2年前に作成したものなので、そろそろアップデートしなくてはと思っているのですが、企業SNSをテーマにした横軸と縦軸の設定は、オウンドメディアにも適用できると考えています。横軸はUGC(ユーザー生成コンテンツ)、要は口コミの量を表し、右側がUGCが多く、左側が少ない状態です。縦軸は商品の関与度を表し、上が低関与商材(即座に購入される商品)、下が高関与商材(不動産や車など、慎重に検討して購入される商品)となっています。
多くの企業が陥りがちな誤解として、①のマスプロモーション戦略に偏重する傾向があります。しかし、そのような戦略が適している業種はごく一部であり、同じ効果測定手法を用いても、業種によっては期待する結果が得られないことがよくあるんです。
この4象限を考えると、例えばBtoB事業や商材は左下の「③コーポレートコミュニケーション戦略」に位置することが多いでしょう。つまり、口コミが少なく、慎重に検討されてから購入に至る特徴があります。しかし多くの場合、「コーポレートコミュニケーション戦略」の指標で測るべきところを、短期的な指標で評価しようとする傾向があり、期待する結果が得られないと、オウンドメディア施策の中止を判断するケースが多いようにみられます。
重要なのは、企業SNSやオウンドメディアの効果が表れるまでに時間がかかるという認識です。実際に1年単位では十分な成果は期待できません。中長期的な投資が必要であることを理解した上で、将来のビジョンを描きつつ、まずはフォロワー数やPV数といった指標に注目することが大切だと思います。
ただし、それだけでは営業部門の理解を得られない可能性がありますよね。そこで、ビジネスにも直結させるために、左上の象限「コンテンツマーケティングの活用」に取り組む方法があります。ウェブサイトへの流入からリード獲得につなげたり、アプリのダウンロードを促進したりするなど、具体的な成果に結びつける施策も並行して行うのが望ましいでしょう。このように、複数の要素を組み合わせながら、総合的に効果測定をして、成果を出していくことが重要だと考えています。
——効果測定に正解があるわけではないですよね。まさにこのフレームワークが、自社のマーケティング、そして効果測定が本当に意味があるのかを問いかけてくれますね。
実際に現場で「いまはこの指標を大切にできるといいな」と思っているものはありますか?
鈴木 私たちも模索中でありますが、メディアの「基礎体力」、つまりメディアパワーをトラフィック数(※4)でチェックしています。年単位でどれほどの成長率があったか、その伸び率を「量」としてみている一方で、「質」としてはエンゲージメントレートをみています。数値の出し方としては「100 - 離脱率」で、要は訪問者があるページを見たあとに別のページに遷移してくれているかを確認する指標です。
※4 ウェブマーケティングにおける重要指標の一つで、サイトへの総訪問回数やセッション数など、ウェブサイト全体のアクセス量を表す数値
記事に投資をしている以上、サイトを回遊していただいたり、別のページを見ていただいたりと、いわゆる「送客」のしかけをきちんとつくり、「質」として見ていきたいなと思っていますね。
あと将来的には、営業にも自信を持って伝えられる成果が必要だと思っています。ビジネスインパクト、つまり顧客や潜在顧客へどれほど価値を届けられたかを実証していきたいです。
パーパス実現とビジネスインパクトの可視化がテーマ
——「gemba」の今後の課題やテーマについて教えてください。
鈴木 私たちの課題であり大きなテーマなのは、コーポレートコミュニケーションという観点で考えた際に、オウンドメディアを通じて、私たちのパーパスである「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」を体現し、社会課題解決に向けたソーシャルインパクトを生み出していくことです。そのためにも欠かせないのが、オウンドメディアがビジネスにもたらすインパクトの可視化だと考えています。
オウンドメディアが、CV(コンバージョン)を含む顧客体験の全体像でどのような役割を果たしているのか。例えばオウンドメディアを通ったお客様と通らなかったお客様の行動の違いをみるなど、どれほどダイナミックにビジネスへのインパクトにつなげられているのか。それを可視化する方法論を確立し、事業部門を巻き込みながら、会社全体でオウンドメディアを活用する基盤をつくることが求められていると感じています。
——では最後に、本日ご参加いただいたみなさんに向けて、一言お願いします。
鈴木 私はオウンドメディアの運営において、生成AIをかなり頻繁に使用しています。気がつけば、AIとの対話が日常的になっているくらいです。
何か悩みがあったら、まずAIに相談してみるんです。例えば、先程のようにブランドパーソナリティといった難しいテーマを考えるときは、頭が混乱してしまうので、パーパスなどをAIに読み込ませて、どんなアイデアが出てくるかを試しています。
みなさんもうまくAIと壁打ちしながら進めてみると、思わぬ答えに辿り着くこともできるのではないでしょうか。
——本日はありがとうございました。
▼イベントのアーカイブ動画は以下からご覧いただけます。
登壇者プロフィール
鈴木 恭平さま
パナソニック コネクト株式会社
デザイン&マーケティング本部 コミュニケーション統括部
パブリックリレーションズ部
PR会社やIT企業で広報およびオウンドメディア、ソーシャルメディアを活用したコンテンツマーケティングを担当し、2018年9月から現職。パブリックリレーションズの視点でコミュニケーションをデザインすることが使命。趣味はカラオケ。最近はボイトレに通って練習に励んでいる。
日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構 幹事 ソーシャルメディア委員会 委員長。
X (Twitter): @TESSYU
モデレーター
徳力 基彦
noteプロデューサー/ブロガー
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Interviewed by 徳力基彦 text by 須賀原優希