企業のSNSマーケティングとは?「成果につなげる7つの鉄則」
デジタルメディアの発展により、企業のマーケティング戦略は大きな変革をもたらしています。この変化に対応するため、従来のコミュニケーション手法を見直す必要に迫られている方々も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、株式会社GiftXの創業者で書籍『SNSマーケティング7つの鉄則』を上梓された飯髙悠太さんをお迎えし、企業がどのようにnoteやSNSをマーケティングに利用すべきか、現代の情報発信戦略について掘り下げました。
※本記事は2023年12月12日に開催された「noteとSNSで広がる!企業の情報発信戦略」第1弾のイベントレポートです。
SNS戦略の見直しは「マーケティング戦略全体の見直し」
——書籍『SNSマーケティング7つの鉄則』は昨今のデジタルマーケティング領域で重要な役割を果たしていると感じます。まずは7つの鉄則について、教えてください。
飯髙さん(以下、飯髙) 鉄則1「トリプルメディアで分解するとSNSの打ち手が見える」からお話しします。
飯髙 昨今、企業がKPIを設定するのは、最重要課題になってきています。例えば、リスティング広告やSEO対策などの施策がある場合、これらの施策からWebサイトへの訪問者数、コンバージョン数につながったかを測るというのが一般的です。
しかしこれらの施策にXやInstagramといったSNSを利用する場合、単一のKPIで成果を測ることは非常に難しくなります。なぜなら、これらのSNSは受動的な性質が強いプラットフォームだから。そのため直接的なコンバージョンだけを目指すのではなく、SNSを通じて顧客へのアプローチやコミュニケーションを行い、企業の売上を最大化する方法を考える必要があります。
トリプルメディア(※)のような分野では、SNS戦略の見直しは、実際には「マーケティング戦略全体の見直し」と同じ意味を持つと私は考えています。これはメディア環境の見直しも含め、非常に重要な要素です。
飯髙 私が出版した書籍では、トリプルメディアを分析する際に、各SNSをどう活用するか、または活用しないかという考え方の重要性についても触れています。私の立場はしばしば「SNSを活用しよう」と解釈されがちですが、実際にはSNSを活用しなくてもよい企業も存在します。
最も理想的な状態は、自社のアカウントから投稿しなくても、顧客がUGC(ユーザー生成コンテンツ)を継続的に提供してくれること。この段階に達すると、場合によっては自社アカウントを持つ必要はなく、ブランドの世界観を守ることが大切になります。
※トリプルメディア……オウンドメディア(発信)、アーンドメディア(評価)、ペイドメディア(認知・集客)をそれぞれの目的に合わせて活用するマーケティング手法。
——なるほど。まずはこの入り口が非常に重要ですね。続いて鉄則2「『言及在庫メソッド』がUGCを爆増させる」とは、具体的にどういうことですか?
飯髙 まず「言及在庫メソッド」とは、ユーザーが自発的に投稿をするための「トピックの量」と「トピックの質」を指します。そしてUGCを増やすためには、企業や製品に関する言及可能なネタ、つまり言及在庫を豊富に提供することが肝心です。
またUGCを増やすためには、いくつかのハードルを乗り越える必要があります。まず挙げるのが「フィジカルハードル」です。投稿しにくいハッシュタグの長さや、商品名の複雑さなどがこれに該当するでしょう。次に「メンタルハードル」で、ユーザーが使用していることを公にしたくないような製品の場合にみられます。
飯髙 この戦略のポイントは、製品やサービスに関する直接的な言及だけではなく、コミュニケーションの文脈におけるUGCも大切にすることです。例えば、あるCMを見て感動したという体験が商品と関連している場合、それはよいとされる考え方です。また特定のアニメとのコラボレーションが社会的な反響を呼ぶこともありますが、必ずしも製品の売上増に直結するとは限りません。つまり、SNS上での俗にいうバズだけに頼るのではなく、実際に製品の売上につながるような戦略を構築することが重要です。
——鉄則3「単体のSNSアカウント運用は失敗する」について、教えてください。
飯髙 多くの企業がSNSでどのようにフォロワーを増やし、エンゲージメントを高めることができるかに注目していますが、それだけに焦点を当てることが、必ずしも最適な戦略ではないというのがここでのポイントです。私が提唱している購買行動プロセス「ULSSAS」では、SNS内で一つのUGCがきっかけとなり、購入行動へとつながる可能性があることを強調しています。
飯髙 株式会社シャトレーゼ様の事例を挙げます。公式アカウントから「すっぱいアイスを使ったカクテルづくり」といった動画が投稿され、これがフォロワーによって模倣され、実際にUGCが発生した例です。
飯髙 最初の投稿は「すっぱい」がテーマであったにも関わらず、ユーザーが「あまい」方向へとアレンジを加えてくださったことで、SNS内での影響力が拡大しました。
公式アカウントがユーザーからの投稿を拾い上げてリポストする行為は、その投稿をさらにバズらせるキッカケになります。このような相互作用を通じて、企業は自社のSNSアカウントを単なる情報発信ツールとしてではなく、ユーザーとの対話や共有を促進するプラットフォームとして位置づけることが大切です。
——「単体のSNSのアカウント運用は失敗する」と聞くと、「SNSを使わないほうがいいのかな?」と思う方もいるかもしれませんが、そうではないんですね。実際には「ULSSAS」を理解し、それを踏まえた上でアカウントを運用することが大切だとわかりました。
プラットフォームは「習うより慣れろ」
最新のトレンドや消費者の動向を学び、実践へ
——鉄則4「プラットフォーム特性の理解が動画を伸ばす」について、教えてください。
飯髙 各プラットフォームではそれぞれ異なるコンテンツが求められており、その理解が動画コンテンツの効果的な広がりには欠かせない要素となっています。
そこで重要なのは「習うより慣れろ」という考え方。つまり、新しいプラットフォームや機能に直接触ってみることが、適したコンテンツを作り出すよい方法となるでしょう。
また、このプロセスは新しい価値観や動画の展開方法を発見する機会にもなります。自らが「ファーストペンギン」となり、未知の領域に踏み出すことで、他では見つけられない独自のコンテンツや伝え方が見えてくるのです。プラットフォームの特性を深く理解した上で、それに合った動画コンテンツを制作することが、結果として多くの視聴者にリーチし、共感を呼び、拡散される動画を作り出すというわけです。
——鉄則5「インフルエンサーはフォロワー数で選ばない」について、教えてください。
飯髙 企業がインフルエンサーを選定する際には、フォロワー数だけでなく、影響力の質、フォロワーとの関係性、ブランドや商品との相性を考えることが必要です。
特定のニッチな分野での影響力が非常に高いインフルエンサーであれば、フォロワー数は少なくても、その分野に特化した高い専門性と信頼性を持っています。そのようなインフルエンサーを活用することで、狙ったターゲット層に対して効果的なマーケティングが行えるケースがあります。
——鉄則6「プラットフォームごとの『法律』が変われば対策も変わる」について、教えてください。
飯髙 「プラットフォームの法律」とは、各SNSプラットフォームによって定められたガイドラインやポリシー、アルゴリズムなどを指します。これらは、プラットフォーム上でのコンテンツの配信方法や表示優先度、広告の掲載ルールなどに大きく関わってくるのです。
プラットフォームの法律が変化すると、それに伴って企業やユーザーが取るべき対策も変わります。例えば、プラットフォーム側が広告に関する規制を厳格化した場合、以前のやり方では広告活動は続けられなくなるでしょう。このため企業やマーケターは、プラットフォームの最新の規制やアルゴリズムの変化を常に意識し、それらに対応する戦略を柔軟に考えていくことが求められます。
——鉄則7「組織のスキルアップがSNSマーケティングを成功させる」について、教えてください。
飯髙 SNSマーケティングに関わる人材は、プラットフォームの基本的な機能だけでなく、最新のトレンドや消費者の動向、変わりゆくアルゴリズムや規制にも柔軟に対応できる知識を持つことが求められます。またそれらを自社のマーケティング戦略に取り入れ、ブランドの認知度向上やエンゲージメントの促進につなげる能力も必要です。
このプロセスは、単にSNSマーケティングの成功に貢献するだけではなく、マーケティング全般における企業の戦略的な能力の向上にもつながります。そのため、SNSマーケティングに携わる全員が、常に最新の情報を学び、実践に活かすことが成功への鍵となるのです。このような組織全体でのスキルアップを促進することが、強固で効果的なSNSマーケティングの根幹を築くでしょう。
SNSマーケの初手としてユーザー評価を分析
——ここまでSNSマーケティングにおける鉄則をご紹介いただきました。実践したいと思いつつも、なかには全体の戦略をすぐに変更するのは難しいと考えている方もいると思います。そんな方は何から始めればいいでしょうか?
飯髙 自社の製品やサービスについて、ユーザーの評価を細かく分析してみてはいかがでしょうか。時には、自社が目指すブランドイメージや製品の特徴が、実際のユーザーの声と異なる場合があります。このようなブランドイメージとユーザーの期待値の差を把握することで、運用担当者はユーザーの関心や好みに合わせて、投稿内容を調整していくことができると思います。
またユーザーの関心を段階的に引き上げる手法も効果的です。例えばある企業がSNSで「ソーセージ」を宣伝する場合、まずは商品単体の写真を投稿して紹介してください。次はソーセージを使ったホットドッグの写真やレシピを共有し、最終的にはBBQでの具体的な使用シーンなどを提示していくと、ユーザーの関心を引き上げることができます。これによりユーザーに製品をより魅力的に見せるだけでなく、製品への関心を深める効果も期待できるでしょう。
——ちなみにInstagramではリールが、TikTokではショート動画と、現在SNSでは動画コンテンツが人気ですよね。このような動画中心の時代において、テキストコンテンツの役割や価値はどのように考えるべきだと思いますか?
飯髙 現代のコンテンツには、大きく分けて「シャロー(浅い)」と「ディープ(深い)」の二つのタイプがあると考えます。特に日本での情報はシャローなものが主流になりつつあるのではないでしょうか。これはスマートフォンの普及による情報への容易なアクセスや、隙間時間を利用したショートコンテンツの消費が一因です。しかし私は、ディープなコンテンツ、例えば書籍などはなくならないと信じています。やはり書籍はシャローなコンテンツよりも、多くを学ぶことができ、価値は永遠に残ると考えるからです。
またYouTubeなどのプラットフォームでは、長尺の動画が増えてきており、これも一種のディープなコンテンツと言えるでしょう。インフルエンサーも、ただ面白いことをするだけではなく、より専門的でコアな情報を提供する方向にシフトしています。
このような背景から、テキストコンテンツを提供する際には、自分が伝えたい情報が「シャロー」か「ディープ」かを意識し、情報を提供することが重要だと思います。
——なるほど。この区別を理解して適切に活用することが、情報をより効果的に伝えるための鍵となるんですね。ちなみにnoteなどのプラットフォームで、企業がユーザーに親しみやすい記事を書くためのアドバイスはありますか?
飯髙 Webサイトに訪れるきっかけとして、検索結果からの流入が多いことを考えると、ブランドの世界観をしっかりと表現することが大切です。記事ではブランドに対してユーザーに自分との接点を見つけてもらえるよう、コンテンツの内容を吟味する必要があります。
また、読者に応じて発信のスタイルを変えてもいいでしょう。私がnoteを書く場合、noteを読んでくれる人たちは普段から私のSNSを見てくれている方が多いので、カジュアルな文章を選んでいます。しかしメディアに寄稿する際には、しっかりとした文章で書くことが多いです。このように読み手や媒体を加味して、記事の広げ方を考えてみてはいかがでしょうか。
——最後に、今日イベントをご覧になっているみなさんが明日から取り組めることとして、アドバイスがあればお願いします。
飯髙 まず、自社の商品やブランドがSNS上でどのようにユーザーに扱われているかを確認してみてください。同時に、競合他社のブランドや企業の情報も調査し、それらとの違いを明確に理解することが、最初のステップになると思います。この段階では、検索を怠らないことが大切です。
次のステップでは、実際に商品を購入している顧客に対して、ユーザーインタビューを行うことをお勧めします。ただし書面でのアンケートではなく、直接話を聞き、生の声を収集することが目的です。
少なくとも10人の顧客に対して、商品の使用方法やなぜ当社の商品を選んでいるのか、改善点などを含めて、意見を聞いてもらえればと思います。
——なるほど。飯髙さんからリアルな声も大切だとお聞きできたのは、大変貴重でした。
今日得た知識を活かし、みなさんのビジネスにおいてSNSマーケティングをうまく活用していただけることを、心から願っています。本日はありがとうございました。
▼イベントのアーカイブ動画は以下からご覧いただけます。
登壇者プロフィール
株式会社GiftX Co-Founder
飯髙 悠太さん
株式会社ベーシック執行役員、株式会社ホットリンク執行役員CMOを経て2022年6月に「ひとの温かみを宿した進化を。」をテーマに株式会社GiftXを創業し、「おもいが伝わる。ほしいを贈れる」選び直せるソーシャルギフト「GIFTFUL」運営。現在、企業のアドバイザーやマーケティング支援も実施。 著書に『僕らはSNSでモノを買う』『SNSマーケティング7つの鉄則』 『BtoBマーケティングの基礎知識』『アスリートのためのソーシャルメディア活用術』
GIFTFUL https://giftful.jp/
マーケティング支援 https://giftx.co.jp/marketing-support
モデレーター
徳力 基彦
noteプロデューサー
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interviewed by 徳力基彦 text by 須賀原優希