「ひとり広報」の仕事術。『ひとり広報の戦略書』小野茜さんに聞く、「リレーションの広報」のすすめ
noteやTwitterを、企業はどのように組み合わせて活用していくべきかを考えるイベント「noteとTwitterでつくる新しい企業コミュニケーション 実践編」。第13回目のゲストは、『ひとり広報の戦略書』(クロスメディア・パブリッシング刊)の著者、小野 茜さんです。
「ひとり広報」のような人手が足りない企業は、どのようにnoteやTwitterをはじめてみるべきなのでしょうか。「ひとり広報は、noteやTwitterをいかに活用すべきか?」をテーマに、お話を伺いました。
※この記事では、「X」の表記をシリーズタイトルに合わせて「Twitter」とします。
ゲスト
小野 茜さん
株式会社EAT UNIQUE 代表取締役社長
実は増えている、ひとりで広報を担う“ひとり広報”
――日本では広報・PRというと宣伝のイメージが強いですが、本来は違うものですよね。
小野さん(以下、小野) そもそも「広報・PR」とは何か、日本ではあまり理解されていないように思います。
2023年6月に日本広報学会が発表した定義には、「組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である」とあります。
勘違いされがちですが、企業の周りにいる人たちとの関係性をつくる、あるいは保つためのマネジメントこそが広報なんです。
――なるほど。去年あたりから「ひとり広報」という言葉を目にする機会が増えましたが、どういったものでしょうか。
小野 「ひとり広報」とは、文字通り、会社において「ひとり」で広報を担っている人のことです。
中には広報以外の仕事を兼務されているケース、スタートアップに多い社長が広報を兼ねるケース、あるいは社員全員で広報を担当するケースもあります。
今はフリーランス広報の方も増えていますので、「ひとり広報」は非常に幅広い方に当てはまる言葉だと思います。
――そんな中、小野さんが『ひとり広報の戦略書』という本を出された目的を教えていただけますか。
小野 「ひとり広報」は業務量も多いですし、業務範囲も広いので、仕事の進め方に悩む人も多いんです。なので、私がよく耳にする「『ひとり広報』は、こういう点が不足しがちだよね」という「5つの不足」を盛り込んだ本にしました。
「5つの不足」というのは、「知識」「情報」「話題」「時間」「繋がり」です。書籍は大きく5章に分け、それぞれ「5つの不足」に対応するよう構成しました。
「ひとり広報」のほうが早く判断できる
――「ひとり広報」はデメリットという話ではなく、逆に「ひとり」だからこそいい面もあると伺いました。
小野 私自身、大勢の組織で調整しながら進めるのが苦手なんです。この本の帯には「『ひとり』だから速くて強い!」とありますが、最低限のコミュニケーション力さえあれば、ひとりのほうが早く判断できたり、強みを発揮できるはず。
一見すると「ひとり広報」は大変そうですけれど、それをあえて強みに変えられると思っています。
――大きい会社だと、広報一人ひとりが担当する分野がとても狭い、というケースがありますよね。商品開発のチームが作った商品のプレスリリースだけを広報が担当するとか。
ただ今の時代、広報と商品開発が一緒に話題性を作っていくくらいでないと、ビジネススピードの面で物足りない。そういう意味では、ひとりの広報さんが色々な仕事を兼務しているほうがいいのかもしれませんね。
小野 「そんなことまで“ひとり”でやっているんですか、めちゃめちゃ大変ですね」と言われることもあります。
広報活動ではnoteとTwitterの連携が効果大
――出版のきっかけは、noteとTwitterだったとか。
小野 はい。2021年11月にTwitterで「本を出したい」とツイートしたのを、たまたま出版社の担当者が見ていたんです。その方とは当時知り合いでさえなかったのですが、「#ひとり広報」というハッシュタグが気になっていたとか。ちょうど出版社の中にも「ひとり広報」を担う方が着任されたタイミングだったそうです。
――意外と広報がいない出版社も多いですよね。
小野 はい。それで「ひとり広報」の方が「何をしていいのかわからない」と悩んでいたのを見て、「ひとり広報」をテーマに本を作れないかと考えていた時に、私のツイートを見たというわけです。
しかも当時、私はnoteに「ゼロから広報」という備忘録的な記事を書き溜めていました。これを見て、これだけ「ひとり広報」のTIPSがあるなら、note記事を素案にして、本にできると思ったそうです。当時はまだ、「ひとり広報」についての本が一冊もありませんでした。なので、タイミングもよかったのでしょう。
このように、私自身を広報していく際にもnoteとTwitterはとても有効でした。「ひとり広報」に限らず、どんな形の広報活動においても、noteとTwitterは相性がいいと感じます。
私の場合、「noteを更新しました」という投稿をTwitterにあげることで、非常に多くのインプレッションを獲得するとともに、note記事のビュー数も高くなりました。
――我々もよく勉強会などで、noteとTwitterのアカウントは一緒に作ってくださいとお願いしています。noteは記事をストックする場所であって、そこまで誘導する手段は他のSNSを活用するのがベターです。
自分とタイプが近い人を参考に発信してみよう
――広報の人って意外と情報発信が苦手なイメージもあります。プレスリリースを書くのが仕事なので、間違いを書いてはいけないと思うあまり、noteやTwitterには何を書いていいか逆にわからなくなる、と。
小野 私の場合は過去にライター業の経験があったので、記事を書いてそれを人目にさらすことへの精神的なハードルが低かったと思います。
ただ、おっしゃる通り、記事を書いたもののなかなか公開する決心がつかず、下書きだけが溜まっていく人も多いと聞きます。失敗してもいいので、まずはトライすることが大事ですね。
――「ひとり広報」のnoteとTwitterは、どんなことから始めるべきでしょうか。
小野 他の人がどういうことを書いているかをしっかり見て、書いた人がなぜこのタイミングでこういう記事を書いたのか、理由や背景について考えてみるといいでしょう。
「この構成だからいいねが集まっているんだな」とか、「このテーマだったら時期をずらしたほうがよかったんじゃないか」など想像していると、自分だったらこう書こうというイメージ力のトレーニングになります。
――どんな人の投稿を参考にすればいいのでしょうか。
小野 フォロワーが多い人は一定の共感を得られていると判断できるので、参考になりますよ。中には積極的に発信する人もいれば、感情を表に出さない人もいます。自分とタイプが近い人のやり方を参考にするといいですね。
noteでは「広報」をテーマにした記事が簡単に調べられるので、興味を引く投稿を探してみてはいかがでしょうか。
情報を自分から積極的に与える「ギブの精神」
――本の中で、ハッシュタグ「#ひとり広報」を使って仲間を探すことも書かれていますよね。
小野 はい。私はTwitterを使っていない時期が10年ほどあったのですが、独立してTwitterを再開してから「#ひとり広報」を使い新たに仲間を探しました。
Twitterでは広報さん同士の繋がりが非常に強いので、「#ひとり広報」で検索するとたくさんの情報が得られると思います。
――一方、企業としてはあまり内側の話を外に出してほしくない、noteやTwitterの利用はほどほどにしてほしい、という意見もあるのではないでしょうか。
小野 広報としてはもちろん、自分が関係している企業の機密を守らなければなりません。しかしそれ以外は、むしろオープンにしたほうがメリットが大きいと思います。情報を自分から積極的に与える「ギブの精神」で活動するほうが、得るものは大きいと感じますね。
なので、自社ホームページやプレスリリースでは説明しきれなかった、裏側の話などをnoteで発信するのがおすすめです。プレスリリースは優勝したコンテンツなんですよ(笑)。予選落ちした、語り切れなかった裏側をnoteで発信する。プレスリリースとnoteの両方を読んでいただくことで情報に厚みが増すので、広報的にも相乗効果が得られると思います。大体、プレスリリースを1本書けば、noteの記事も1本書ける計算です。
――一方、広報として積極的に活動していても、効果測定の面などから社内の理解が得られないこともあります。広報活動への理解を得るにはどうすればいいでしょうか。
小野 どんなに小さくてもいいから早く成果を出すこと、そしてその成果を社内に共有するのが大事になります。
広報のわかりやすい成果は、やはりメディアに出るのが一番です。ただし、日経新聞や朝日新聞といった大きなメディアに掲載されるのは簡単ではありません。一方で、業種が近しい企業のnoteで取材してもらう程度であれば実現しやすいし、その記事を成果として社内に共有できるので、おすすめしています。
社内共有の際は、記事を書いてくれた人が、自社のことをどう思ったかを一緒にフィードバックすると非常に効果的です。「御社の社長さんのこういう所がすごいと思った」「御社のこういうカルチャーはうちにはない」といった定性的な情報を、第三者の言葉として共有しましょう。こうした小さな成果の共有の積み重ねが、理解を得るうえで大切になりますね。
——なるほど。広報の効果測定というと、つい露出記事数など量のほうに目が行きがちですが、パブリックリレーションだから、世間からの見え方と社内の認識のズレを合わせてあげる、と。
小野 また、仮に大きなメディアに記事が出たとしても、「私が出しました」と言ってはダメです。広報同士であれば「すごい!」という反応が期待できますが、広報以外の人から見ると「記事が出たのは広報だけの手柄じゃない」という反応になりがちです。共有の仕方によっては、「共感」より「嫉妬」のほうが大きくなってしまいます。
広報がメディアリレーションばかりになってはいないか?
――広報の最終目標がメディア露出だと思われ過ぎていますよね。本来広報はパブリックリレーションのはずなのに、メディアリレーションばかりになっている。
小野 そう思います。その「罠」にはまり辛い思いをしている広報も多いと感じます。
スタートアップの場合、商業メディアに露出するのはまだまだ先の話と考え、企業間のリレーション構築などを優先するほうがいいでしょう。
――BtoBの場合はどうすればいいでしょうか。BtoCなら商品が面白ければメディアが取り上げてくれる可能性もあると思うんですが。
小野 BtoBの場合でも業界紙などニッチな媒体はたくさんあるので、露出できそうな媒体を調べ尽くすことが大事になります。
私は、特に「人」を起点にしてPRすることをおすすめしています。どんな会社にも社長が、サービスには開発者がいらっしゃいます。そうした「人」のインタビュー、つまり、この会社にはこういう想いを持った人がいるんですよ、という記事は非常に有効です。
――つまり、note記事を出していくだけでも十分効果があるということでしょうか。
小野 その通りです。また、そう考えると「ひとり広報」が自分でnote記事を書くことにもっとポジティブになれると思います。
――最後に、イベントの締めとして、明日からすぐできるアドバイスを何かいただけますか。
小野 広報は活動量が成果に比例しやすいといわれています。今日行った活動を可視化する習慣を身につけると、成果に繋がりやすくなるので、ぜひご自身の活動を可視化するよう心掛けてください。
――デジタルマーケティングの世界には「つくる」を3割、「届ける」を6割、「分析」を1割にせよという「361の法則(サーロインの法則)」がありますが、広報の場合、積極的に自分の活動を積み上げていかないと、社内仕事で1日終わっていた、となりがちですよね。毎日地道に積み上げることが成果に繋がる、と信じて取り組むのが大事だと思いました。本日はどうもありがとうございました。
敬称略
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ゲストプロフィール
小野 茜さん
株式会社EAT UNIQUE 代表取締役社長
カフェ・レストラン・ホテルや、外⾷業界向けニュースメディアでのライター・デスク経験を経て、2012年に株式会社ABC Cooking Studioに入社。約5年の在籍中に広報、新規事業開発、アライアンス事業に従事。あらゆるゼロイチの取り組みに挑戦し、2016年末に退職し独立。
2017年よりフリーランスPRとして活動を始めるが同年6月にPR支援を行う会社、株式会社EAT UNIQUEを設立し、本格的に事業をスタート。業種・業界を問わず企業・団体の外から広報支援活動を行っている。PR TIMES公認プレスリリースエヴァンジェリスト、著書には「ひとり広報の戦略書」(クロスメディアパブリッシング)がある。
「noteとTwitterでつくる新しい企業コミュニケーション」イベントの実践編は、バックナンバー公開中です。あわせてお楽しみください。
interviewed by 徳力基彦 text by 名古屋剛