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リアルな企業像が採用成功のカギ——freeeが実践する"ありのまま"の広報術

多くの企業がオウンドメディアを活用して採用活動を行うなか、どのようにその効果を最大化しているのでしょうか?

今回は、クラウド会計ソフトを提供するフリー株式会社の、人事基盤本部 組織基盤部長 兼 中途採用部長の笠井康多かさいこうたさんと、人事基盤本部 中途採用部 eng中途採用課長の栗林由季くりばやしゆきさんをお招きし、お話を伺いました。

freeeさんといえば、会社がまだ小規模の頃から採用広報に注力し、現在でもたくさんの社員インタビュー記事や採用ブログなどの幅広い発信をされていることで有名です。

採用広報の取り組みや、社内で理解を得るための具体的なアプローチについて、事例を交えながら詳しくご紹介します。


ボトムアップで始まった「採用ブログ」

——freeeの採用サイトには採用広報の先駆けともいえる「採用ブログ」というページがあります。最初はどのように始まったのですか?

栗林さん(以下、栗林) もともとfreeeは、創業者でCEOの佐々木大輔ひとりのイメージが非常に強い会社でした。ですが、社内には優秀なメンバーがたくさん在籍しているんです。それが世の中に知られていないのはもったいない、もっと彼らを知ってほしいという思いから、自社ブログと採用サービス「Wantedly」での発信をスタートさせました。

freeeの採用サイトにある「採用ブログ」
従来の採用活動では伝えきれていなかった情報をブログにして発信

栗林 これがいまでいう「採用広報」の始まりですね。2017年くらいからブログを始めましたが、当時は採用広報という言葉はあまり浸透していませんでした。

——確かに。そもそも企業が採用のために情報発信することも、以前はなかったと思います。freeeはこの10年ほどで社員が20人→1,700人に増えたとのことですが、エージェントや広告だけでは採用が間に合わないからブログを始めた側面もあるのでしょうか?

栗林 私が入社した2014年当時のfreeeは、スタートアップゆえに知名度が低く、採用候補者がfreeeを受けようと思いづらい、という課題がありました。そこで会社を理解するのに不足している情報を、私たち現場のスタッフがどんどん記事にしていたら、自然と採用ブログになっていったという感じです。

栗林さん

——上司からのトップダウンで採用広報を始めたのではなく、現場からのボトムアップでスタートしたのですね。企業文化にもよりますが、こういったケースはめずらしいと思います。

笠井さん(以下、笠井) それはfreeeの価値基準のひとつである「あえて、共有する」と関係あると思います。弊社には、何かを共有すること自体が価値のあること、という共通認識があり、社員の知見やお客様の声を社内外に発信することが推奨されているんです。

採用に関しては、一緒に働くひとを自分たちで選ぶという文化が根付いていて、採用候補者との面接も基本的に人事部ではなく事業部が行います。これにより、採用活動においても社内での情報共有が重要な役割を果たしています。

笠井さん

会社の等身大の姿をみせるのは、幸せな転職のため

——採用を目的とした情報発信をするうえで大事なことは何ですか?

栗林 本当のことをお伝えすることですね。私たちはfreeeの内情を知っていただくことを踏まえて発信しています。

なぜなら、実際に転職してみたら思っていたのと違う、となったら、会社も転職されてきた方も残念ですから。転職はゴールではなくスタート地点だと思っています。

——これまでの採用活動のように、きれいにお化粧された姿ではなく、会社の素をみせることが大事な時代になってきているんですね。

笠井 それについては2つポイントがあります。ひとつは会社のキラキラした面も出すこと、もうひとつは等身大の姿をしっかり発信していくこと。この2つは、会社と採用候補者の両者にとって大事なことだと思っています。

というのも、私たちが採用候補者をスカウトするとき、成功したプロジェクトやメディアに取り上げられた取り組みといった、会社のキラキラした面も出さないと相手に興味を持ってもらいにくいでしょう。

一方で、採用が進んでいくと、採用候補者は「はたして自分は本当にこの場所で人生の一期間を過ごしていいのだろうか?」と思うようになります。どういうひとが働いているのか、社内はどんな雰囲気なのか。つまり自分はこの会社にマッチするのか、が気になってくるでしょう。

そのときに、会社の等身大の姿をさらけ出したものがないと、そのひとは最後まで自分の決断に確信が持てないまま転職を決めることになってしまいますよね。

——採用ブログでは社員インタビュー記事が多いですね。「こういうひとに来てほしい」というイメージがあるんですか?

栗林 いいえ。freeeには商社や外資系、銀行、メディアなどから転職してきた、多様なバックグラウンドを持つ方々が集まっています。社員インタビューの記事数が多いのは、転職を検討しているひとに「自分と似た背景のひとがいる」と思ってもらいたいから。そこは意図的にやっていますね。

社内の当たり前は、社外にとっては驚き

——ここで反響が大きかったfreeeの記事を紹介しましょう。ひとつ目はfreeeの部活制度「オフカツ!」の活動を取り上げた記事、ふたつ目は新卒エンジニアの1日のスケジュールを紹介したもの、最後が入社式レポートです。

入社式レポートはネタ的に他社もすぐに真似できそうですが、他の2本はなぜ選んだのでしょうか?

栗林 freeeでは月に2本程のペースで、ひとにフォーカスした記事の公開を継続的にやってきました。そのとき採用に注力しているポジションだったり、すごく輝いている社員だったり、そういうひとたちを対象にしています。

それ以外の日常的なことも記事にしてみようとラフな感じで始めて反響が大きかったのが、オフカツ!と新卒エンジニアの1日のスケジュール記事で。こういう記事に反響があったことが私たちの驚きだったので、取り上げてみました。

記事「freeeのオフカツってどんなものがあるの?「Blue Heart Initiative」の活動に迫る!」
この記事では、CSRやCSVといった観点で、ビジネスではない手段を用いて社会に貢献できる方法を模索している部活「Blue Heart Initiative(ブルー・ハート・イニシアティブ)」を紹介

——会社の正式なCSRチームではないのに、社会貢献を熱心にやっている部活があるんですね!

栗林 はい。社外の方には驚かれるのですが、freeeではこのような活発な部活動は普通のことなんです。

私はときどき記事のネタについて相談されますが、意外と目の前で起きている普通のことが記事になる、社外のひとにおもしろいと思ってもらえる、とお伝えしています。

また1日スケジュールの記事は、反響もよくおもしろかったので第2弾の記事もつくりました。こういう情報は新卒の方がよく読んでくれます。会社で働くとはどういうことなのか、知らないひともたくさんいるので、参考になったみたいです。

記事「freee社員の1日のスケジュールを公開! vol.1 〜新卒エンジニア編〜」
社内用語も解説しつつ、エンジニアが1日をどのように過ごしているのかタイムスケジュールを交えて紹介。この記事は採用サービス「Wantedly」で掲載

「記事を読んで応募しない」ことも採用活動への貢献

——では、視聴者から質問の多かった効果測定についてお伺いします。どのように効果測定や日々のPDCAを回しているんですか?

栗林 正直なところ、PVなどを意識しすぎた記事の発信は、いまのタイミングではやっていないんです。一応、数字は見ていますが、あくまでも発信を続けることを重視しています。

ただ、ご入社いただいた方などには、どういう記事を読んだかヒアリングしています。おもしろいことに、「あの記事に感銘を受けてfreeeに興味を持ったんです」と言っていただいた記事のPV数は、それほど高くはないんですよ。

笠井 別の角度から見ると、転職検討層が「記事を読んで応募しない」ことも、ひとつの貢献だと思います。事前に社風が合わないと判断してくれれば、お互いに無駄な時間を過ごさなくていいわけですから。内定承諾率や定着率にも影響しますし。

それに多様な記事があればあるほど、いろいろなひとに刺さりやすいので、あまり厳密に記事の効果を管理するよりは、記事を出し続けて誰かのフックになることを担保できればいいと思います。

——なるほど。いわゆるデジタルマーケティングで行われるデイリーの効果測定ではなく、中長期で「この記事は採用に効いた」と観察する、広い意味での効果測定をしているんですね。

成果が出るまで2年待ってもらえるかがカギ

——採用広報の先駆者ともいえるfreeeですが、当初は効果について社内で厳しい声もあったと思います。理解を得るために、どういう工夫をしましたか?

栗林 内定した方や面接にきてくれた方にfreeeについてヒアリングをしました。すると、ヒアリングした情報と、私たちが伝えたい情報にすごくギャップがあったんです。なので、「このギャップを埋めるために、こういう記事を出しませんか」と社内に発信することで、採用広報の重要性を浸透させていきました。

——コスト面での経営陣への説得は大変ではありませんでしたか?

栗林 やはり費用対効果は問われましたね。私は広報って、短期では効果は出てこないものだと思っているんです。もちろんゼロではありませんが。でも、「この記事を出したら何名採用できるの?」と言われたら、即効性という意味ではなかなか難しいものがありました。

これから採用広報を始めるなら、成果が出るまで2年は待ってもらうといいのではないでしょうか。もちろん「いつまでに成果が上がるよう活動する」と目標をしっかり持ち、それを経営陣にも伝えることも大事だと思います。

笠井 定量的な効果分析も大切ですが、「N=1」のリアルな言葉が、読者にすごく刺さるのも事実なんですよね。記事を読んで感動し自己応募で入ってきてくれた事例が出てくると、採用エージェントへのフィーやスカウトのコストなどと暫定で比較しても、費用面でペイしている、といえるんです。

社員インタビューが集まったページ
さまざまな背景を持つ社員へのインタビュー。会社のカルチャーや働き方のリアルを読み取ってもらうことが目的

社内をよく見渡して、採用広報をやる意義を見つけよう

——会社のカルチャーによって、採用広報の難易度が違うと思います。freeeのような情報発信に近づけるには、どのようなことを意識すればいいでしょうか。

栗林 採用に関わるひとは、会社について伝えることが大切です。どんなに小さくても会社で起きていることを知ると、自分の言葉で採用候補者に会社のことを伝える力もつくのではないでしょうか。社内のイベントや起こってることに目を向けて、会社を好きになって行動していくと、会社のカルチャーにも少しずつ変化が出てくるのかな、と思います。

笠井 採用広報ですごく大事なのは、入社してくるひとに対して事前にコミュニケーションができることだと思います。もしいま採用広報をやっていないなら、転職者の会社に対する理解が不足してるために早期退職してしまう、などの課題がすでに社内にあるはずなんです。それをしっかり観察すれば、なぜ採用広報をやるのか、意義や意味が見えるのではないでしょうか。

——本日はありがとうございました。
(敬称略)

▼この記事のもとになったイベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

登壇者プロフィール

笠井 康多さん
フリー株式会社 人事基盤本部 組織基盤部長 兼 中途採用部長

1984年生まれ。千葉県出身。2008年に住友商事に入社。営業経理部にて輸送機・建機ビジネスを担当、連結会計やプロジェクト会計、海外/国際税務等を経験(米国公認会計士資格取得)。その後、鉄道システムの輸出ビジネスに従事し、主に東南アジア市場を担当。2016年にBCGへ入社し、通信や金融機関など幅広い業種の事業戦略策定等に従事。2020年にfreeeへ入社し、経営企画室長としてビジョン策定、中長期戦略や出社方針の策定などを主導。2022年より組織基盤部長として全社の人材戦略の策定を主導し、継続的な事業成長に向けた取り組みを推進。2024年7月より中途採用部長を兼務し、非連続な採用力強化に取り組み中。

栗林 由季さん
フリー株式会社 人事基盤本部 中途採用部 eng中途採用課長

2014年20名ほどの会社であったfreeeのリクルーターとして入社。 当時はあまり一般的ではなかったダイレクトリクルーティングやリファラルを取り入れ自社採用力を強化、急速な組織の成長を支える。また中途・新卒採用チームの立ち上げ・拡大。採用広報の立ち上げを行い採用チーム部長を務める。 ビズリーチでのダイレクトリクルーティングアワード、wantedlyaward大賞など数々の賞を受賞。 2020年産休育休を取得後復職。復職後エンジニア採用(主に優秀な人材を獲得するための母集団を徹底的に強化)を担当し、現在はエンジニア採用チームのマネージャを担当。

モデレーター
徳力 基彦
noteプロデューサー

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Interviewed by 徳力基彦 text by 本多いずみ