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大学広報の常識をくつがえす。國學院大學が目指す「学び合い」のコミュニティのかたちとは

法人がオウンドメディアを開設する目的のひとつが、読者とのコミュニケーション。コンテンツを通じて自社の価値観に共感してもらい、読者との信頼関係を深めるためにnoteを運営する企業が増えていますが、その流れは教育機関にも広がっています。

國學院大學のnoteは、学内の情報発信にとどまらないユニークなコンテンツ群が魅力。学術研究の府として“学び”の楽しさを学内外に発信しています。また学問を中心としたコミュニティ形成を目指し、さまざまなコラボ企画も行なっています。多くの読者をひきつけるメディア運営の秘訣をお伺いしました。

今回は、國學院大學広報課の原口章はらぐち あきらさん、編集プロダクション・株式会社DECOの篠宮奈々子しのみや ななこさん、株式会社Huuuuの日向ひゅうがコイケさんにお話を伺いました。

主なポイントは3つ。

  • より多くの人に学問に触れてもらうため、コミュニケーションの場としてnoteを開設。横のつながりも含めた学問好きのコミュニティ作りを目指す。

  • 多様な価値観を取り入れるため、学外のスペシャリストに広報課のメンバーとして参画してもらう。

  • noteに何かしらのアクションをしてくれた読者をくまなく巡回。「スキ」がきっかけで法人とのコラボにつながることも。

この記事では、より詳しく運営の裏側をお伝えしていきます。

博物館でたとえると大学ホームページは常設展、noteはテーマありきの企画展

——まずはnote運営におけるお三方の役割を教えてください。

原口さん(以下、原口) 私は大学に属する広報課の職員で、noteの管理人のような立ち位置ですね。掲載するコンテンツの企画やスケジュール調整などを担当しています。協力会社の篠宮さん、日向さんとともにnoteを運営しています。

篠宮さん(以下、篠宮) 國學院大學のnoteはときどき、noteのユーザー参加型企画とコラボをしています。私はコラボ企画に投稿された作品の選定や、noteに何らかのアクションを起こしてくださった方への取材の仕切りなどを担当しています。いわば、実動部隊みたいな感じですね。

日向さん(以下、日向) 私はnoteの全体設計を原口さんと一緒に考えたり、記事の企画・制作を担当しています。原口さんが管理人なら、私はちょっと個性の強い住人みたいな感じでしょうか(笑)。

——國學院大學は2021年に「キャンプを考える研究室」というnoteを開設。現在は「國學院大學メディアnote」として運営しています。そもそもnoteを始めた背景を教えていただけますか?

原口 國學院大學では以前から大学のホームページで先生方の研究や活動内容を紹介してきました。そうやって学問的なお話を展開しているなかで、もっと多くの人に学問を身近に感じてほしいなと思ったのがきっかけですね。

広報担当者として数年先の広報活動を描いていくなかで、これからは大学と世の中とのコミュニケーションの場が必要だと考えていました。そこでnoteのフィールドをお借りして、大学が今までやってきたものを拡張し、コミュニケーションを図っていくことを目標にアカウントを開設しました。

なぜ國學院大學がキャンプのnoteを立ち上げたのか説明します。
記念すべき最初の記事。キャンプを研究するにいたった大きな理由、
國學院大學とキャンプの関係などの熱い想いが綴られています

原口 大学のホームページは学問をメインコンテンツに据えていますが、noteは噛み砕いてカジュアルに、さまざまなテーマを切り口にして展開しています。たとえるなら、ホームページは博物館でいう常設展。noteはテーマありきの企画展のようなイメージでしょうか。

noteは多様な人たちが自分の考えや経験などを、自由に共有していますよね。大学が提供している“学問”や“学び”に親和性の高い人たちが行き交っていると感じています。

──2023年4月から「國學院大學メディアnote」と名称を変更しました。変更のきっかけは何でしょうか?

原口 「キャンプを考える研究室」は、國學院大學が力を入れている考古学など、学問から語れることがたくさんあるという理由で始まりました。人気レジャーのキャンプが切り口なら、多くの方とコミュニケーションが取りやすいですから。

なので、「國學院大學メディアnote」は「キャンプを考える研究室」とコンセプトが大きく変わったわけではないんです。学問は一人ではできません。コミュニケーションから先に進んで、コミュニティを意識しはじめたのが理由のひとつですね。学問の場としての面を少し広げたともいえます。キャンプだけでなく、それ以外の領域も取り扱えるようにもなりました。

名称変更によって、それまでの「大学とクリエイター」という関係ではなく、私たちも学びの場のいち住人として一緒に学び合えることを目指しています。

多様な価値観を取り入れ柔軟性のある運営体制に

──運営体制について教えてください。

原口 以前は、大学の広報課が主体となってテーマや企画、設計などを考えて、協力会社に制作を依頼していました。ただ将来像を考えると、私たちも多様であるべきなんです。とはいえ、大学のなかだけの価値観では多様性を出しきれない部分もあるんですね。

そこで、さまざまな分野の人が集まって同じ目標に向かって進めていこうじゃないかと、これまで協力会社という関係だった篠宮さんや日向さんにも、この4月から広報課の一員として参画していただいています。

学内外の垣根を越えて学びのコミュニティを作っていくためにも、柔軟な運営体制を築いているところです。

学問をもっと身近に感じてもらえるようなコンテンツを提供する

──企画を立てる時は、何を大事にしていますか?

日向 「学問」というテーマが持つ豊かさや懐の広さを、どうおもしろく表現するかは常に意識しています。

報道と幸せな職場は両立できるのか。元新聞記者・辻 和洋 | 私が学ぶ「私的」な理由
学び直す道を選んださまざまな職業人の学びのスタイルと、
その「私的」な理由にフォーカスした、シリーズ「私が学ぶ『私的』な理由」

日向 通常、私たちのような会社が記事制作を依頼される場合、なにかしらのプロモーションを目的とすることも少なくありません。でも國學院大學の場合は少し特殊で、狭義の大学プロモーションが第一ではなく、学問という人類の共通財産をみんなでおもしろがろうよ、学問を愛する人のコミュニティをどんどん広げていこうよ、という壮大なビジョンがあった。

はじめは私たちも受験生の数などをいわゆるKPIとして設定しようとしたのですが、原口さんたち広報課が思い描いている世界が、ものすごく高いところにあると気づいてからは、こぢんまりした企画にならないよう気をつけています。

原口 大学がこういうことを始めると、みなさん誰もが「受験生集めですか?」とおっしゃるんです。しかし、これで受験生を集めようとは一ミリも思っていません。本来、学問はもっと身近にあるべきなのに、今は特別視されていると感じていて。学問を身近に感じてもらって、共感してくれる人たちが集まったら、コミュニティとして耕されて賑やかになるだろうな、という想いが企画の根っこにあります。

——國學院大學の関係者以外の方にもインタビューされていますよね。

日向 はい。すでに大学のホームページで学内の方を主とした記事が作られていたこともあり、noteではさらに広く、学外の人たちにも話を聞いていこう、という方針を定めました。学問を愛する同志、というスタンスでインタビュー相手をチョイスしています。

例えば連載「蒐集、それは研究の始まり」や「私が学ぶ『私的』な理由」などは、インタビューに出てくれる方の人間性や思想、学問への向き合い方などを深掘りし、いかにおもしろく掬い上げて解釈できるかを意識して企画を作っています。

——対談や取材先は、どのようなきっかけで選定しているんですか?

篠宮 私たちが「スキ活動」と呼んでいるクリエイターの巡回がきっかけです。具体的には、記事に「スキ」をつけてくれたり、フォローしてくれたりした方を、日夜リサーチしているんですよ。その中から、大学と相性がいいな、気づきを与えてくれる記事だな、と思った場合、そのクリエイターさんの記事にスキをつけます。そして、その方を取材対象者として検討させていただきます。

ものすごく真剣に考えてスキをつけていますよ。クリエイターさんの記事をくまなく読んでいます。大学の看板を背負っているので、責任重大なんです(笑)。

——クリエイターさんも大学からスキをもらったら、うれしいのでは?

原口 個人のクリエイターさんにお話を伺ったとき、「大学のアカウントでもスキをつけてくれるんですね。うれしかった」というコメントをいただきました。そのとき、私たちも「自分たちの行動が誰かの喜びに繋がっている」という気づきがあって。それがスキ活動につながっていると思います。

「スキ」を通じて法人とのコラボも実現

──SUZU GROUPさんとのコラボ記事「新潟の地場の食からサスティナブルな未来が見えるSUZU GROUPの挑戦が刺激的!」も、スキが縁で作られた記事なんですか?

篠宮 はい。こちらは「◯◯さんに聞いてみた」という連載のひとつです。noteのご担当者のパッションを感じ、ぜひお話を伺いたいと取材依頼をしました。それにnoteの使い方がびっくりするくらい上手だったんです。私たちもnoteを育てている最中だったので、そのあたりを軸に質問を決めていきました。

——コラボ企画をスムーズに進めるコツなどはありますか?

篠宮 取材依頼をすると、みなさんとても喜んでくれるという発見があったので、どのような方でも一度、取材依頼をしてみることをおすすめします。こちらの想いさえあれば、受けてくださると思うので。

原口 大学の先生も、インタビューで好きなことを語れるので、取材はめちゃくちゃ喜んでくれますね。(と、思っています)

——取材時に気をつけていることはありますか?

日向 テーマが「学問」だからといって、構えすぎないようには意識してます。

学外の方に取材をすると、大学の公式アカウントに載るということで、「アカデミックなことを話さなければ」と感じる人もいるようで。なので、もっとのびのびと学問への愛を語ってくださいと説明しています。

学内の先生方の場合も同様です。やっぱり、普段から学生の前で何時間も講義されている先生方ってナチュラルに話が上手だし、おもしろいんですよ。

事前に下調べをすることは大前提ですが、学問に関心のある一人の人間として、先生の研究や考えに興味があるという姿勢で臨むと、先生方も惜しみなく知識を共有してくださいます。毎回取材終わりには、贅沢な講義を受けたような気持ちになってますね。

ビキニパンツの「鬼」がいざなう歴史沼|蒐集、それは研究の始まり
「何かを偏執的に集めている人は、その分野について他の人には見えないものを見ているに違いない」という切り口で、研究のあり方やその楽しさを探る「蒐集、それは研究の始まり」シリーズ

学問好きのコミュニティを育てていきたい

——noteを運営していて、これまでどのような反響がありましたか?

原口 noteの運用を始めた頃、大学の先生からは、キャンプというテーマを入り口に学問に触れていくやり方をとても褒められました。外部の人からは、いい意味で「やられた」と(笑)。noteという街のなかの一角に、学びや学問の場をこしらえ、取り組みを図っていく。このようなやり方は、なかなか斬新だったみたいです。

篠宮 プロモーションではないのに、大学のメディアで、ここまでコンセプトを維持して更新できているのがすごいね、とよくいわれます。ちなみに私の周りでは、卵シールを蒐集している人を取材した「日付があるのがいいシール|蒐集、それは研究の始まり」が人気です!

日向 同業者からも読者からも、記事がおもしろいと褒められます。個人的には、毎回、取材相手が喜んでくれるのがうれしいですね。

——今後の目標を教えてください。

日向 これからも読者が楽しめる記事をたくさん出していきますが、今年はコミュニティ作りを具体化したいです。noteを入り口に読者とリアルに触れ合える場が作れたら、真のコミュニティに一歩近づけるのではないでしょうか。ゆくゆくはオフラインイベントも開催できたらいいなと考えています。

原口 スキ活動やいろいろな人との出会いだけでなく、横のつながりも含めた学問好きのコミュニティ作りを少しずつ前に進めたい、というのが当面の大きな目標ですね。 

私たちのnoteは始まったばかり。まだまだクリエイターさんやフォロワーさんに教えてもらっている段階です。長い運用を考えているので、答えばかり急がずに、着実にやりたいですね。

——ありがとうございました。

まとめ

プロモーションではなく、学問の楽しさを共有するコミュニティ作りを目指す國學院大學のnote。大学の中だけにこだわらず、学問を愛する同志として外部の人をスタッフとして取り込んだり、noteのクリエイターにも積極的に取材したりして、多様な価値観を表現する姿勢が素敵でした。noteを入り口に、読者同士がリアルに触れ合える場へ進化する姿も楽しみです。

最後に國學院大學のnote運営で参考になるポイントを再度振り返ります。

  • より多くの人に学問に触れてもらうため、コミュニケーションの場としてnoteを開設。横のつながりも含めた学問好きのコミュニティ作りを目指す。

  • 多様な価値観を取り入れるため、学外のスペシャリストに広報課のメンバーとして参画してもらう。

  • noteに何かしらのアクションをしてくれた読者をくまなく巡回。「スキ」がきっかけで法人とのコラボにつながることも。

みなさんもぜひ、note運営の参考にしてみてください。

interviewed by 漆畑美佳 text by 本多いずみ photo by 黒羽政士

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