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優秀な人材獲得のために。メルカン編集長の瀨尾さんに聞くオウンドメディアで採用に貢献する秘訣とは?

多くの企業がオウンドメディアを活用し、採用活動をおこなう昨今。その手法は、オウンドメディアリクルーティングとも呼ばれ、各社では採用効果を最大化するためのコンテンツが次々と打ち出されています。

今回はフリマアプリ「メルカリ」のオウンドメディア・「メルカン」の編集長である瀨尾せお あきらさんをゲストにお迎えし、「実践企業に学ぶ オウンドメディア成功の秘訣」と題したイベントを開催。メルカリがなぜ「メルカン」を立ち上げ、どのように継続的に運営しているのか。詳しくお話を伺いました。


開設から8年。約2,200本以上の記事を発信

——早速メルカリのオウンドメディア「メルカン」についてお話を伺います。まずはメルカンをあまりご存知ではない方に向けて、簡単にご紹介いただけますか?

瀬尾さん(以下、瀬尾) はい。「mercan(メルカン)」は、2016年5月に採用を主目的として誕生した株式会社メルカリのオウンドメディアです。メルカリの「人」を伝えるというコンセプトのもと、これまで2,200本以上の記事を発信してきました。私自身は2022年3月にメルカリに入社し、同年7月から編集長を務めています。

mercan(メルカン)トップページ
※2024年5月に撮影

——8年で2,200本ということは、年275本ペースですか?凄まじい数ですね。ご紹介いただいたようにメルカンは採用のためのオウンドメディアというイメージが強いですが、開設当初からオウンドメディアを運営する目的は変わらないのでしょうか?

瀬尾 そうですね。開設当初からメルカンを運営する目的は3つあり、今も大きくは変わりません。

「メルカン」の取り組み 「メルカリの"いま"を正しくかつ遠くまで届け、エンパシーの総量を増やす。」をコンセプトに、以下の目的に沿って発信をしています。・採用力強化のため武器を増やす・メンバーのエンゲージメントを向上させる・ステークホルダーからの信頼を獲得する

瀬尾 目的の1つ目は採用力強化のための情報発信です。基本的には自分たちが「何を目指しているのか、どういう人と一緒に働きたいのか」ということを伝えていく場として活用しています。特に人材のカルチャーフィットを重視するメルカリにとっては、記事を通じて社風や雰囲気を肌で感じてもらうことも重要だと考えています。

2つ目は社内エンゲージメントの向上。メルカリは常に新しいメンバーが加わり、組織も変化し続けています。そんな中で、メルカンが社内の情報ハブとなり、組織を越えたコミュニケーションを活性化する役割を担っていますね。またメルカリでは新しいビジネスやサービスもどんどん立ち上がっていて、最近では「メルカリ ハロ」のような求人プラットフォームも誕生しました。社内の人間すら会社で起きていることを全て把握するのが難しい規模になっているので、メルカンではそれらを伝える意識も欠かせません。

そして3つ目が、ステークホルダーからの信頼獲得です。事業の節目では経営陣の想いを伝えたり、各事業の進捗をキーパーソンの言葉で語ってもらったりと、ステークホルダーに向けたメッセージ発信にも取り組んでいます。メルカリのパーパス(存在意義)を、社内外のステークホルダーに共有することで、ファンやサポーターを増やしていきたい。この3つの価値を同時に追求することで、「採用メディア」の枠を超えた存在を目指して運営しています。

——瀬尾さんご自身の担当領域としては、採用がメインだと思います。ですが、メルカンのミッションとしては3つの大きな目的を持っていて、幅広いですよね?

瀬尾 はい。オウンドメディアの運営は採用に対するブランディングの一環ですが、同時にコーポレートブランディングの領域にも深く関わっています。チームとしての目的を達成するためには、会社の法人格に共感をしてもらう必要もあるので、あわせて注力していますね。

——オウンドメディアの編集長がこの辺の意識をお持ちなのは、すごいことですよね。ちなみに今のメルカンの運営体制は、どれくらいの規模感ですか?

瀬尾 結構驚かれることが多いんですが、かなり小規模なんです。専任として動いているのはごく少数ですね。一応コンテンツを作成する流れとしては、編集部が採用文脈で伝えたいことを手掛ける企画と、持ち込んでもらったものを我々が編集サポートする企画の2つのパターンがあるんです。なので、実際には全員体制でオウンドメディアを動かしている気持ちではあります。

——専任は数人でも、昔からの名残で「全員で広報をする意識」は、社内に浸透しているんですね。

瀬尾 そうですね。初期の頃にトップがすごい熱量でメルカンをつくってくれたおかげでそういった意識は社内に浸透しています。さらには「メルカンに頼めば、何か相談に乗ってくれるんじゃないか」という信頼関係も構築されているのかなと。そこは僕らもありがたく、過去のアセットを使わせてもらっていますね。

企業メッセージはストック型として中長期的に効果が出る

——メルカンの記事や企画の中で、瀬尾さんが特に手応えを感じたものを教えてください。

瀬尾 3つほど挙げさせていただきます。1つ目は、弊社のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)への取り組みを紹介した記事です。メルカリでは、性別による賃金格差の是正に向けた取り組みを進めていますが、狙いと施策について、D&I担当者やデータアナリストにインタビューした記事を公開しました。公開直後は大きな反響はありませんでしたが、現在は検索から記事を見つけてもらったり、Xでシェアしてもらったりと、じわじわと反応を得ています。

手応えを感じた記事や企画

瀬尾 この記事は直接採用に関する話ではないものの、自分たちの会社の姿勢やメッセージを世の中に伝えていくという側面では、結構手応えがありました。企業メッセージはストック型として、中長期的に効果があるのも実感しましたね。

——意外でした。実は私、まだこの辺のニーズに関してよくわかっておらず、本当に読んでもらえるの?と思っていたんです。

瀬尾 実は私たちのチームは採用サイトを運営していることもあって、D&Iや福利厚生に関するページは、読者の方に時間をかけて読み込んでもらっているというのが、アナリティクスからもわかっていたんです。確かに採用候補者からしたら、入社する上での関心事として気になるんだろうなと思いまして。多くの人に刺さらなくてもいいので、当社への入社意向が高い人をさらにひと押しするような情報をつくっていく、ということを考えた時に必要なコンテンツだと考えています。

——ありがとうございます。他に手応えを感じた記事についても、教えていただけますか?

瀬尾 2つ目は、リーダーインタビューの連載企画「Meet Mercari’s Leaders」です。メルカリでは組織がダイナミックに変わったり、新規サービスが立ち上がったりして、都度いろんなところからリーダー陣がやってきます。そのため各組織のリーダー自身の言葉で、組織の役割やビジョンを語ってもらうことに意義があると考え、連載をスタートしました。連載でリーダーの人となりや想いに触れることで、社員や採用候補者が自分がその組織で働く姿をイメージしやすくなったと感じています。

最後は、創業10周年を機に展開した「メルカリの10年、そしてUnleashする可能性と未来」という特集です。メルカリでは10周年のタイミングで、初めてGroup Mission(グループミッション)「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」を掲げたんです。特集では各事業のキーパーソンたちに、グループミッションに対する想いを、それぞれの言葉で語ってもらいました。当初このミッションは抽象的な部分もありましたが、いろんな人によって言語化したことで、ミッションが社内に浸透するいい機会になったと感じます。

——さまざまな企画を立ち上げて、手応えを感じているんですね。瀬尾さんはオウンドメディアの担当者として、心がけていることはありますか?

瀬尾 オウンドメディアの運営を任されている以上、社内でどう認識されているかは気になるところです。せっかく社内のいろいろな部署の方にインタビューする機会があるのに、「記事化する際の手続きが面倒」「またメルカンに取材されるのか」と思われたら、本末転倒です。

事業部の方から「うちのプロジェクトを取り上げてください」と相談があった時は、もちろん事業部の想いは大切にしつつ、他の事業部の動きともコラボレーションしながら、Win-Winの企画を提案するようにしています。例えば1つの記事では「PM × エンジニア」のように複数ポジションに対して訴求するなど、「1記事、1役割」に留めないよう、結構気を遣っているかと。

そのためには、日頃からいろいろな人とコミュニケーションを取り、信頼関係を築いておくことが何より大切ですね。オウンドメディアの仕事は、机に向かってキーボードを叩くだけではないんです。一人ひとりの思いに寄り添い、共感を通じて価値あるコンテンツを生み出すことだと思います。

定性効果も可視化して共に価値をつくる

——一般的にオウンドメディアは長期的な取り組みになるので、効果測定が難しいというお話をよく聞きます。メルカンでは、どのように効果を測定されているのでしょうか。

瀬尾 確かにオウンドメディアは長期的な観点が必要で、記事単位での効果測定は難しい面がありますが、メルカンでは定量と定性の両面からアプローチをしています。

定量面では採用候補者が入社した後にアンケートを実施して、メルカンの認知度を調査。また採用サイトの募集要項にもメルカンの記事を掲載しているので、そこからの遷移率なども効果指標としてみています。

定性面では、採用候補者にメルカンの記事を読んだ感想や印象的な記事を尋ねるなどをしています。時には「この記事を読んで、強く共感を覚えました」といった具体的なフィードバックをもらうこともあり、今後の記事作成の参考にしていますね。また、インタビュー協力者に対して、記事公開後のエピソードを収集するアンケートも実施。「記事がきっかけで、久しぶりに前職の友人から連絡をもらえた」「インタビュー記事が名刺代わりになった」などの報告を整理し、振り返っています。

——定性のフィードバックが上がってきやすい仕組みをつくるのは、とても大切ですね。メルカンのような、社内の人が必ず見るメディアだと、それなりの結果として数字が出ると思うんですけど……僕が想像している以上に、定性を大切にされていますね。

瀬尾 やはり測りきれない部分にいかに価値を感じてもらえるかは、常日頃から考えていて。いろんなかたちでvisibility(可視性)を上げていかないと、社内で「メルカン屋さん」になってしまうリスクがあり、それは避けたいと思っています。なぜなら「メルカン屋さん」という言葉には、依頼した仕事を淡々とこなすだけの存在というニュアンスが込められているように感じるから。

私たちが目指すのは、社内の課題を一緒に解決する「パートナー」としての存在。記事化のためのインタビューも、単に必要な情報を引き出すだけでなく、背景にある想いをしっかりと聞く。それを言語化し、社内外の読者に伝わるストーリーに落とし込めるかを一緒に考える。価値を共につくる仲間なんだと、しっかり伝えていきたいと思っています。そのためには、やはり定性は大切な指標の1つになるんです。

社内の「メルカン屋さん」にならないために

——運営する中で直面している課題はありますか?

瀬尾 オウンドメディアを長く続けていく上では、どうしてもさまざまな課題が出てきますね。挙げるとすれば、膨大なコンテンツの整理と、新しいメンバーとのコミュニケーションの2つでしょうか。

1つ目のコンテンツに関する課題ですが、2,200本を超える記事はメルカリの大切な資産である一方で、サイトの構造上、多くの記事が埋もれてしまっているのが現状です。過去の記事の中にも、今読んでほしいものがたくさんあるので、メルカンという箱を使って情報の再編集をしたいところです。

2つ目の課題は、新メンバーとのコミュニケーション。メルカリは採用が盛んで、次々に新しいメンバーが加わっていますが、そのような方たちにとって、「メルカン」はどれだけ身近な存在になれているのか、まだハッキリとわかってはいません。

創業初期からのメンバーであれば、自分もコンテンツづくりに関わった経験があったり、記事化された同期の姿を見たりしているので、愛着も強いと思います。一方、後から加わったメンバーにとっては、「メルカン」はすでにあたりまえの存在で、想いを共有することが難しいかもしれません。メルカリの文化を体現し、引き継ぐためのツールとして「メルカン」を活用してもらうには、新しいアプローチも必要だと感じています。

——最後にこれからオウンドメディアに取り組もうとしている方や、すでに運営されている方に向けて、何かメッセージをお願いします。

瀬尾 オウンドメディアの運営は、とにかく「面白がることが大切」かなと思います。人って、自分の話を面白がってくれる人には、心を開いてくれることが多いじゃないですか。だからまずは、自分が何かに興味を持って面白がる。そこから待つだけでなく、「これはどういうことなんでしょう?」と、相手にどんどん尋ねてみる。こういうふうにしていろんな人と接点をつくっていくと、仕事もしやすくなるかなと思います。

——ありがとうございました。

▼イベントのアーカイブ動画は以下からご覧いただけます。

登壇者プロフィール

瀨尾 陽さん
メルカン編集長

編集者 / 愛犬家。編集プロダクションでキャリアをスタート、その後いくつかのWebメディアの編集長を経て、2022年3月にメルカリ入社。同年7月からメルカン編集長としてサイト運営を推進。自転車とレコードが好き。

モデレーター

徳力 基彦
noteプロデューサー/ブロガー

interviewed by 徳力基彦 text by 須賀原優希