裏で支える“人の顔や想い”を届けてファンを増やす。オウンドメディアの移行も成功させたフラーが、成果目標を置かない理由とは
限られたリソースで質の高いコンテンツをつくる。これは多くのnote運営者が目指していることです。
今回お話を伺ったフラー株式会社は、デジタルに特化したものづくりのプロフェッショナルがアプリやウェブに関わる支援を展開する「デジタルパートナー事業」を手がける会社です。
同社は、自社構築したオウンドメディアからnoteに移行して、自社で発信するさまざまなコンテンツを集約。同時に、社内を巻き込みながら、採用と事業のブランディングを視野に入れた発信に成功しています。
ここでは、noteへの移行の成果や、社員や顧客のエンゲージメントを向上させる取り組み、運営者お二人の想いまでを聞いてみました。
インタビューに答えていただいたのは、フラー株式会社 経営企画グループ広報ユニット長 兼 フラーのデジタルノート編集長日影耕造さんと、インハウスエディター(社内編集者)の土屋さんのお二人です。
主なポイントは3つ。
「フラーのファンを増やす」広報部門のミッションの実現と、採用/事業のブランディングのため、オウンドメディアをnoteに移行するタイミングで、自社で発信するさまざまなコンテンツをnoteに集約。
定期的な会議で社内のニーズをキャッチ。新入社員には入社後すぐに取材を行い、フラーの情報発信の文化を体感してもらうことで、今後の取材や寄稿への心理的ハードルを下げてもらう。
事例紹介やニュースリリースだけでは伝えきれない、事業の裏側で活躍する社員の顔や想いを伝えることで、フラーにポジティブな印象を抱いてもらい、将来の採用活動や企業間のパートナーシップにつなげる。
この記事では、より詳しく運営の裏側をお伝えしていきます。
コストを抑えた効率的な広報のため、自社構築サイトからnoteへ移行
──まずはnoteを導入したきっかけを教えてください。
日影さん(以下、日影) note「フラーのデジタルノート」を立ち上げたのは2021年です。
実はそれまで、Webサイト作成ツール「WordPress」で制作した独自ドメインのオウンドメディア「App Ape Lab(アップ・エイプ・ラボ)」を運営していました。自社プロダクトであるアプリ市場分析サービス「App Ape(アップ・エイプ)」のデータを生かしたコンテンツを発信するメディアなのですが、運用においてエンジニアが必要なことや、保守・運用の費用などコスト面で問題がありました。
またその頃、弊社はクライアントにアプリやウェブに関わる支援を行うデジタルパートナー事業が拡大していた時期で、依頼の増加によって、デザイナーやエンジニア、ディレクターといった人的リソースが足りない状況でした。
これらをなんとか改善したいと検討した結果、noteが候補に挙がったというわけです。
移行における最大の懸念は、それまでのオウンドメディアでは検索順位の上位を取れていたキーワードが、noteになってからもきちんと取れるのか、という点でした。オウンドメディアは、ブランド力の向上やSEOという意味でも、独自ドメインで運営するのが望ましいとされています。
当時はまだnoteでのオウンドメディア事例が多くありませんでした。そんな中で、自社構築したオウンドメディアをやめて、独自ドメインを設定できるとはいえnoteへ移行することは苦渋の選択であり、一種の賭けでもあったのです。
しかし結果として、noteでも同じように検索結果で上位が取れました。非常に嬉しかったですし、私たちの目論見は間違っていなかったと安堵しましたね。移行してよかったなと感じています。
──noteを活用したオウンドメディアの目的はなんでしょうか?
日影 私たち広報部門のミッション「フラーのファンを増やす」の実現と、それを採用と事業のブランディングにつなげて弊社の中長期的な成長に貢献することです。フラーに関するさまざまな情報をnoteに集約し、私たちの発信によってポジティブな印象を抱いてもらって、フラーのファンになってほしい。そして採用や事業への貢献につなげたいと思っています。
限られたリソースで良質なコンテンツをつくるため、数値での目標設定はしない
──運用上の目標や指標はありますか?
日影 数値での成果目標は、オウンドメディアの開設当初から現在に至るまで立てていません。
というのも、弊社の従業員数はもうすぐ200人くらいなのですが、広報は私を含めて3人と、広報を管掌する執行役員が1人、業務委託のライターさんが1人という構成。このなかでもフルで活動しているのは3人だけなんです。
その限られた人数で、データ分析や数値を追いかけることばかりにリソースを割いては本末転倒になってしまいます。一方で、土屋さんと私は前職でライター・記者を務めており、商業媒体でコンテンツ作りの経験があるプロフェッショナルが広報に集まっています。
そのアドバンテージを生かして、良質なコンテンツを少しでも増やしていったほうが、最終的には自分たちが求める「フラーのファンを増やす」というミッションにつながるのではないか、と。それであえて、数値での目標設定はしていないんです。
ファンになってもらえているかの判断材料として、記事のスキ数や読了率、PV数は見ていますが、それはあくまで参考とするため。成果指標ではなく、月の更新本数という行動目標は設定しています。
——月あたりの記事の更新数はどのくらいですか?また、SNS公式アカウントとの連動はどのようにしていますか?
日影 インハウスエディターの土屋さんとは、月に8本から10本くらいの記事を公開しようと話しています。定期的にコンテンツがあると新たに訪問してくれる読者や固定のファンの心を掴みやすいかも、と考えて設定した緩やかな目標です。繁忙期や取り上げるテーマがあるときには増えることもあります。
土屋さん(以下、土屋) コンテンツ掲載はnote・SNS・プレスリリースの3本が軸です。媒体としては、noteのほかにコーポレートサイトと採用サイトがありますが、ニュースリリース以外のコンテンツはまずnoteで出し、それらサイトとSNSに展開していくイメージですね。
記事公開はタイミングが命!定期的な会議でニーズをいち早くキャッチ
──記事の企画はどのように立てていますか?
土屋 採用広報と事業広報で、異なるアプローチでコンテンツを企画しています。
私が担当している採用広報の場合は、採用チームのメンバーと週1回の定例ミーティングを行い、募集状況はどのくらいか、どの職種にどんなスキルの人材が必要か、などをヒアリングして企画・作成していますね。
日影 私が担当する事業広報では月に一度、事業部と広報の連携会議を開いています。各プロジェクトの進捗状況を把握して取材や記事公開のタイミングを判断したり、プロジェクトの取り組みでコンテンツにできそうなネタや新規プロジェクトの広報方針をヒアリングしたりするためです。
事業広報は社内だけでなく社外の方への取材もあるので、そういった方々をいかに巻き込んでいくのかが重要です。事業部の人たちにも「このnoteに出演することで、クライアントワークにプラスになる」と感じてもらいたい。なので取材交渉も、クライアントが販促や露出を増やしたいタイミングに寄り添って行うようにしています。
記事化が決まったものは、各プロジェクトのリーダーとコミュニケーションを取って、ゴリゴリと記事をつくっていくという体制です。
──社内でnoteの認知や関与度を高めるために工夫していることはありますか?
土屋 記事を公開したら、Slackと月1回の全社ミーティングでnoteを共有しています。
また、新入社員には必ず取材し社内報に掲載します。入社エントリーのようなもので社内向けの記事ですが、入社時と1ヶ月後にインタビュー取材や写真撮影を受ける体験をしてもらっているんです。
これは「フラーは、社員によく取材する会社なんだ」と認知してもらうことで、今後の取材や寄稿への心理的障壁を突破させる取り組みです。同時に、noteが採用候補者の気持ちをどれくらい後押ししたかもヒアリングしています。
事例紹介では伝えきれない「フラーのフィロソフィー」を言語化する
──特に印象に残った記事を教えてください。
土屋 昨年はデザイナーの記事に力を入れていたのですが、そのなかでも「手を動かし続けるデザイナーであれ。マネジメントと向き合うデザイナーのキャリアを考える」は反響も数字に表れてよかったですね。
土屋 それまで社内デザイナーのデザインのフィロソフィー(哲学)、つまり「デザインに対する向き合い方」のようなものを明確に言語化したことがなかったので、それを外部に向けて公開したらフラーのデザイナーの魅力がもっと伝わるのでは?と記事にしました。
また採用に関連して印象に残っていることとして、最終面接でフラーのnoteをすべて読んだという猛者もいて、単純に嬉しかったです。
日影 昨年制作したなかで特に思い入れがある記事は、2023年度のグッドデザイン賞を受賞した「長岡花火公式アプリ」の開発の裏側に迫った「アプリが生み出すアウトカム 長岡花火公式アプリ7年目の景色(前編)(後編)」ですね。
日影 弊社が長岡花火財団と7年に渡り共創している長岡花火公式アプリについて、どんな想いでもの創りをしているのか、当事者の目線で伝えている内容です。長岡のさまざまな姿を届けようと、あえて冬の季節の長岡に集まり、静かな信濃川の河川敷をみんなで眺めながら語ってもらいました。
日影 記事に「スキ」がたくさんついて嬉しいのもありますが、私たちがnoteで伝えたい「事業分野」がテーマの記事とは、きっとこういうものなのだろうな、とも思います。
長岡花火公式アプリの制作はその裏側で、デザイナーやエンジニアを含めかなりの人数が関わっています。そういう人たちの顔や想いを伝えることで、読者が私たちについて理解してくれたり、ファンになってくれたりする。
また、将来もし一緒に仕事をすることがあったときに、過去に読んだ記事を思い出して「この人たちなら大丈夫だな」と思ってもらいたい、とも思います。
──非常に印象的な記事です。長岡の花火にも行ってみたくなりました。
日影 ぜひ!普通は、私たちのようにアプリ開発をやっていても、ユーザーがアプリを利用している場面にはほぼ遭遇できないものです。でも、長岡の花火大会の会場内では一斉にみなさんがアプリを使っている様子が見られて……。嬉しかったですね。花火大会は実際に自分たちのプロダクトを使う利用者を見られる貴重な体験ができる場でもあるんです。
「アプリ開発といったらフラー」へ。安心感を持ってもらうためにノウハウを公開
──今後、noteでやっていきたいことを教えてください。
土屋 検索流入へとつなげる記事を増やしたいです。先日公開した、初心者向けスマホアプリ開発についてまとめた記事は、初めてスマホのアプリ開発を任された人にとってお守りのような存在になってほしくて企画したものです。「アプリ開発」で検索するとフラーにたどり着いてもらいたいと想いを込めました。
土屋 この記事はアプリ開発の全体について書いたものですが、このなかの1つひとつの工程も単体の記事にできるような内容なので、ここをもっと厚くしていって“フラーはアプリ開発に強い会社だ”と印象付けられる記事づくりをしていきたいです。
──アプリ開発のプロである御社が、開発ノウハウを公に出すことに抵抗はないのでしょうか。
日影 むしろ、こういった手法や流れを文章で出していくことは、お客様にとっての安心感につながると思っています。
スマートフォンは今や生活インフラとしてあらゆる年代の人々に使われており、それに伴い非IT企業でスマホアプリをビジネスの重要なスキームに取り込む企業は増える一方です。
そのような企業の担当者が最初のリサーチで弊社の記事に巡り合ってくれれば、フラーを心に留めて認知してもらえるでしょう。ならば検討フェーズに入った際には、私たちの名前を第一想起してもらえる可能性もあります。そこにアプリ開発を含めてフラーについての情報を発信する価値があると考えています。
また、弊社は千葉県柏市の柏の葉本社と新潟県新潟市の新潟本社の二本社体制で、それぞれの地方の特長を最大限に活かした経営により、中長期的な成長を目指しています。
そういった意味では、地域に根ざした記事から私たちの顔や考え方を感じ取ってもらえたら嬉しいですし、その地域に住んでいる人の採用や、地域の企業との連携にもつなげたいですね。
そのために、これまでのnoteの記事と方向性の異なる記事もつくっていきたいです。人が足りなくてなかなか実現していないのですが!(笑)
土屋 フラーの社員の魅力を言葉で表現しようとすると、例えば「思いやりがある」といったような“当たり前の表現”にしかならないことが多いのですが、当たり前のことを本当に実直にできることが、フラーのメンバーのいいところなんです。それを記事のなかで当たり前の言葉を使わずに読者に伝えて、ファンになってもらえるといいなと思っています。
——ありがとうございました。
まとめ
広報事業としての「フラーのファンを増やす」という命題に沿って、ほぼ3人で運営している「フラーのデジタルノート」。事業紹介にとどまらず、その裏にある人々の顔や想い、地域の魅力を読者に感じてほしいという温かい想いが、すべてのコンテンツに込められていました。
企画立案や記事をリリースするタイミング、社員が抵抗なくnoteに協力してくれるための体制づくりなど、みなさんのnoteの運営にも役立つヒントが見つかったのではないでしょうか。
最後にフラーのnote運営で参考になるポイントを再度振り返ります。
「フラーのファンを増やす」広報部門のミッションの実現と、採用/事業のブランディングのため、オウンドメディアをnoteに移行するタイミングで、発信するさまざまな情報をnoteに集約。
定期的な会議で社内のニーズをキャッチ。新入社員には入社後すぐに取材を行い、フラーの情報発信の文化を体感してもらうことで、今後の取材や寄稿への心理的ハードルを下げてもらう。
事例紹介やニュースリリースだけでは伝えきれない、事業の裏側で活躍する社員の顔や想いを伝えることで、フラーにポジティブな印象を抱いてもらい、将来の採用活動や企業間のパートナーシップにつなげる。
みなさんもぜひ、note運営の参考にしてみてください。
interviewed by 漆畑美佳 text by 三浦良恵
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