新時代の文章術とは?ヒット作連発の編集者・竹村さんに聞く「企業担当者が今学ぶべき文章術」
今や企業が当たり前にnoteやSNSを活用して情報発信をしていく時代。しかし実際に発信をはじめると「どうやって魅力的な文章を書くの?」などといった課題に直面する企業が少なくありません。
そこで今回は100万部を超えるヒット作の編集者であり、昨年5刷で1.9万部のロングセラーになっている書籍『書くのがしんどい』を上梓された竹村俊助さんをお迎えし、企業担当者が学ぶべき文章術について掘り下げました。noteやSNSをはじめようとしている企業や、文章を書くのが苦手な方々は、ぜひご覧ください。
※本記事は2024年2月に開催した「noteとSNSで広がる!企業の情報発信戦略」第3弾から一部を抜粋したイベントレポートです。
まずは「文章を書きたくなる取材」を
——最初に「絶対にこれを覚えてほしい」というポイントを教えていただけると伺いました。ぜひお聞かせください。
竹村さん(以下、竹村) 書籍『書くのがしんどい』にも書いてある言葉ですが、今日はみなさんに「書くな。伝えろ。」という言葉を覚えて帰ってほしいです。この言葉を意識すると、誰でもスムーズに文章を書けるようになります。
竹村 「書く」ことは、時として目的を見失いがちです。しかし「伝える」という視点で文章を書くと「誰に、何を、なぜ伝えるのか」を自然に意識するようになります。「書く」ことに迷った時は、自問自答してみてください。「私は誰に、何を、なぜ伝えたいのか」。この問いに答えることができれば、自然と文章は流れてくるはずです。
——みなさん、絶対に覚えて帰ってください!では、書籍『書くのがしんどい』の本編からお話しいただけますか?
竹村 はい。私は編集者として10年以上、文章に関わってきました。そのなかで文章を苦手とする方々の悩みを紐解くと、5つの「しんどい」原因があることに気づいたんです。
そもそも書くことがない
文章を書いても「読みにくい」と言われる
文章は書けるけれど、読んでもらえない
途中まで読んでもらえるが、内容が面白くなくて最後まで読んでもらえない
書くことが続かない
そこで本書では誰もが「書くのが楽しい!」といった状態に行き着くために、それぞれの「しんどい」が、解消されるコツを紹介しています。
——早速、ひとつめの「書くことがない」から教えてください。
竹村 実は「書くことがない」と感じるのは、とても一般的な悩みです。そこで「書くことを見つける」ために必要となってくるのが「取材」。ネタがなければ、文章も書けないからです。しかしネタがないと気づいても、闇雲に取材することはおすすめしません。取材は、以下の5つを心がけるとよいでしょう。
コンテンツメーカーではなくメディア
特におすすめしたいのは、自身をコンテンツメーカーではなく、メディアとみなすこと。自分で何かを生み出すのではなく、メディアとして既にある情報を集め、伝える役割を担う。それを行うだけで、自然と文章を書くことができます。「人」にフォーカスしよう
サービスのローンチや採用情報など「事」にフォーカスするのではなく、「人」に焦点を当てて、取材をしましょう。企業は意外と「事・物」にフォーカスした情報発信をしがちですが、SNSでは情報の向こう側に「人」の存在を感じたほうが反応を得やすい傾向があります。取材対象者に悩みをぶつけよう
取材する際には、事前に用意した質問だけでなく、相手に自分の悩みをぶつけてみましょう。悩みをぶつけると相手が真剣に答えてくれることが多く、熱を帯びた取材へとなっていきます。「いつからですか?」と聞こう
この質問は相手のエピソードを引き出すのに非常に有効です。例えば相手にマネジメントについて尋ねた場合、「昔からそのポイントを押さえてたんですか?」と聞くと、「いや最初は〜」のようなエピソードが出てきて、会話に厚みが増します。「経営者」が最強コンテンツになりうる
経営者やリーダーの話は、強力なコンテンツになり得ます。経営者のビジョンや思いは企業のアイデンティティーを象徴するものなので、積極的に前面に出してみましょう。
竹村 これらのコツをおさえながら「書きたくなるぐらいまで取材する」ことがおすすめです。取材でいい話を聞くと「絶対にこれは伝えなきゃ!」といったワクワク感に駆り立てられます。
それぞれのコツを学び、“読まれる文章”へ
——ふたつめの「文章が読みにくい」を解決すべく、「文章のコツ」を教えてください。
竹村 はい。この章では「文章のコツ」として、次の項目を挙げました。
竹村 「読みにくい文章」に直面した時、まず提案するのは「読む速度」と「理解する速度」を一致させることです。このバランスを保つためには、あれもこれも一気に情報を出さずに、ひとつずつクリアに伝えることが重要になります。早速、国会の答弁書を例にみていきましょう。
竹村 答弁書は公的な文書なので、読みやすさよりも正確性を重視していると思います。ただ、一般の方が読んでパッと理解できる文章ではないでしょう。私は専門家ではないので、細かいニュアンスは異なるかもしれませんが、以下のようにひとつずつ情報を整理していけば「読む速度」と「理解する速度」が一致して、読みやすくなります。
竹村 続いてですが、「文章が読みにくい」以前に、文章を書くことに慣れていない方もいますよね。その場合は音声入力の利用を推奨しています。今や音声入力の内容をAIを用いて整理できるので、実際に文章を書かなくてもいいんですよね。
下記をご覧ください。「この間、有楽町線が動かなくて大変だった」という普通の会話を、音声入力でデータ化し、AIに一人称の視点で表現するように指示をしています。
竹村 このアプローチは賛否両論あると思いますが、簡単にAさんとBさんの会話を、例えばBさんの一人称視点で再構成できます。
文章を書いた後は客観的なレビューも不可欠。一度完成した文章を次の日に見直し、第三者からフィードバックを得ることで、読みやすい文章へと近づきます。
——次の「そもそも読まれない」については、冒頭で「マーケティング力」が必要だと述べられていましたね。
竹村 はい。個人的に「情報発信」という言葉は、危険なワードだと思っています。「発信」は、主体が一方的に相手に何かを投げている状態で「一方通行」に感じてしまうのです。そこで重要なのは「相手とコミュニケーションを取る」という意識。読者が何を求めているのか、どういう情報に価値を感じるのかを考えていくと、徐々に相手のことが見えてきます。
竹村 次に「『何を』よりも『誰が』を固める」についてです。多くの企業は発信時に「何を」伝えるかに注力しがちですが、私はよく「そもそもあなたが誰なのか、まだ読者に伝わっていません」と、アドバイスします。
社名を聞くだけで誰もがその企業をわかる状態なら、「次は何を伝えよう」というフェーズに移行してもいいでしょう。しかし、その段階でない場合は、まず「誰が」を固めてください。特に企業の認知度が低い段階では、企業の強みや自己紹介を明確にすることが、読者に対して理解してもらう上でおすすめです。
さらに企業ごとのフェーズに応じて、「発信主体」を変えることも大切。成熟した企業ではオウンドメディアの運用が効果的かもしれませんが、起業間もない段階では、経営者自身が積極的に発信することで、企業の「顔」として認知を高めることができます。
竹村 続いて発信時のターゲット設定についても触れたいのですが、私は常に「自分が読みたいものを書く」ことにしています。これは小説家・平野啓一郎さんが提唱する「分人主義」の概念に基づくものです。ひとりの人間には多くの側面があり、そのひとつの側面に訴えかけることができれば、同じような興味を持つ人々にリーチできると言えます。
——「一点集中することで火がつく」というのは非常にわかりやすい考え方ですね。続いて④「コンテンツが面白くならない時」に乗り越えるコツを教えてください。
竹村 コンテンツ化の際に重要なのは「言いたいことをひとことで言う」ことです。多くのコンテンツが失敗する理由のひとつは、伝えたいことがぼんやりしていて、何を主張しているのかが読者に伝わらないこと。そのため最初のステップとして、自分の言いたいことを明確にひとことで表すことが大切です。
竹村 私たちには、柿内芳文さんというアドバイザーの方がいらっしゃいます。書籍『嫌われる勇気』などのヒット作を担当した編集者さんなのですが、柿内さんは私たちが書いた文章を読むと、まず「この文章で一番面白い部分はどこか」と尋ねてきます。
私たちがその部分を話すと、柿内さんは「今の話は面白い。それをタイトルにしよう」「その部分を冒頭に持ってこよう」といったアドバイスをしてくださるんです。伝えたいことを雪玉のように固め、一言で表現することで、遠くまで飛ばすことができるのだなと感じました。
また情報に「感情」を加えることも、コンテンツをより引き立てる手段としておすすめです。笑える、泣ける、怖い、勇気が出る……。面白いものを目指すのであれば、とにかく読み手の感情を動かさなければいけません。「グッと来る」ポイント、「へえ」と思えるポイントがビシッと伝わるように設計することが大切です。
次の「数字、固有名詞、直感的な言葉」に関しては、作家の林真理子さんが『週刊文春』で連載している人気エッセイ「夜ふけのなわとび」を例に挙げます。
下記は林さんが新橋演舞場に喜劇を見に出かけた時のお話ですが、具体的な固有名詞や詳細な情報を書いている点がポイント。一般的な文章では、固有名詞は「みんなが知らないから」と抽象化しがちですが、具体名を書いたほうが読者はリアルで身近なイメージを持つことができます。「幕間にお弁当を食べている」よりも「幕間に幕の内弁当を食べている」と表現すると、読者は劇場の雰囲気を感じ取ることができますよね。
Xの世界にある「鏡の法則」。ポジティブな連鎖を導く
——最後に「続かない」という悩みに関して、どうすれば続くようになるのか教えてください。
竹村 継続するための最大のコツは、はじめるハードルを低く設定すること。完璧を目指すあまり、発信を遅らせてしまうのではなく、少しずつでもよいので継続的に発信することが大切です。
私がよく強調するのは、発信すること自体がゴールではなく、スタート地点であること。発信後のPDCAサイクルを通じて、コンテンツを改善していくことのほうが実は重要なんです。
竹村 また社内の巻き込みやアイデアを募集することも効果的です。ひとりで全てを抱え込むのではなく、アイデアを募集する過程すらネタにするのはどうでしょう。そして、うまくいかなかったことをネタにすることもアプローチのひとつ。失敗を恐れずに、コンテンツ化することで、読者に親近感を持ってもらえるかもしれません。
そして継続の最大のコツは「楽しむこと」。取材が楽しければ、その楽しさは必然的に文章にも表れ、読者にも伝わります。読者からの反応があれば、さらにやる気が湧き、いい循環も生まれるはずです。「続けないと」「書かないと」と思っている時点では、なかなか続きません。やはりいかに楽しいポイントを見つけられるかが、肝になってくるんです。
——まずは「楽しむ」ことが重要なんですね。最後に、今日のイベントをご覧になった方に向けて、明日からすぐに実践できるアドバイスを教えてください。
竹村 Xの世界では、自らが発するメッセージが、同じ思考の人々や反応を引き寄せる「鏡の法則」があります。ネガティブな言葉を多用すると、それに同調する人々が集まり、逆にポジティブで価値ある情報を共有すると、それに共感し、関心を持つ人々が集まってくるのです。
この法則は企業活動全般においても、同じことが言えますよね。自社の強みや価値のある情報を発信していくと、自然といい人が集まり、採用もうまくいく。結果として、企業活動をさらに豊かにします。
発信したものは決して無駄にはならず、すベて企業の資産になります。なので、みなさんも自信を持って文章を書いてみてください!
——本日はありがとうございました。
▼この記事のもとになったイベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。
登壇者プロフィール
竹村俊助さん
株式会社WORDS代表取締役
株式会社WORDS代表取締役。経営者の顧問編集者。ダイヤモンド社等を経て2018年に独立。『メモの魔力』前田裕二著、『福岡市を経営する』高島宗一郎著、『佐藤可士和の打ち合わせ』佐藤可士和著など書籍の編集・執筆。SNS時代の「伝わる文章」の探求をしています。著書に『書くのがしんどい』(PHP研究所)。ポテトサラダが好き。
モデレーター
徳力 基彦
noteプロデューサー
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interviewed by 徳力基彦 text by 須賀原優希