その記事の裏には、多くの失敗や挫折がある——「NHK取材ノート」が伝えるテレビの向こう側
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その記事の裏には、多くの失敗や挫折がある——「NHK取材ノート」が伝えるテレビの向こう側


「NHK取材ノート」が読まれています。

震災時のヘリコプター取材の裏側を書いた「『ごめんなさい 救助のヘリじゃなくてごめんなさい』」には1万以上ものスキがつきました(2021年6月現在)。

NHKがnote「NHK取材ノート」を始めたのは、2020年12月。上記のヘリコプター取材の記事以外にも、反響の多い記事を何本も公開し注目を集めている同noteは、開設半年で6000フォロワーを獲得しました。

こんなにも読まれ、支持を得ているNHK取材ノートでは、「読者とのコミニュケーションを1から考え直した」とのこと。

「取材の結果」のみを伝える従来の記事とは一線を画し、誰がなぜどんな思いで取材したのか、そして、どんな悩みや挫折があったのかもできる限りオープンにしていったそうです。

今回は「NHK取材ノート」編集部のメンバーであるデスクの熊田安伸さん、足立義則さん、松枝一靖さん、そして記者として加わっている成田大輔さん、杉本宙矢さん、小倉真依さんの計6名に、「NHK取材ノート」制作の裏側を伺いました。

「届いてないな」という実感からのスタートだった

NHKがnoteをはじめたきっかけは「情報が視聴者や読者に届いていない」という切実な危機感からでした。

NHKオンライン」や「NHK NEWS WEB」をはじめとした公式サイトやSNSには、一定数フォロワーやファンがいます。「しかし、それ以外の層に読まれているのかは疑問でした」と語るのはNHKネットワーク報道部の足立さん。

実際、出した記事に対して否定的な反応や厳しいコメントがつくことも、しばしばあるそうです。

メディアに向けられる厳しい視線や意見の原因のひとつに、これまでのメディア側の伝え方があったのではないかと、編集部では考えたそうです。

つまり、「こうした事実や出来事がありました」と結果だけを報道するのではなく、「なぜその取材をしたのか、取材者がどんなことを考えていたのか」もあわせて説明することで、メディア不信を少しでも払拭していきたいという思いでした。 

01ネットワーク報道部の様子

ただ、NHKの放送やサイトではそうした「独白」は必ずしもなじみません。

「NHKのニュースでは、事実を客観的に伝えることを大事にしていて、それは、非常に大切なことです。一方で、情報の裏側にある『熱』を届けようとしても放送やサイトでは伝えきれない、なじまないという、『限界』がありました。

それに、放送には反映できなかったけれど、取材者本人が語る『実はね……』といった話って、放送以上に面白かったり、感動したりすることがよくあるんです。『放送後に居酒屋で取材記者に聞いた裏話がいちばん面白い』って。」(松枝さん)

裏側をじっくり書ける場所はないか。
取材過程を出せないか。
そんなときに出会ったのがnoteでした。

noteは無料でも始めることができ、少し勉強すれば発信できる。
「自分をさらけ出していい」というnoteの世界観が、自分たちがやろうとしていることにハマるのではないかーー。

そんな想いで「NHK取材ノート」を立ち上げました。

02松枝さん熊田さん足立さん

ネットワーク報道部のデスク3人で「NHK取材ノート」を立ち上げた。(左)松枝一靖さん、(中)熊田安伸さん、(右)足立義則さん

「テレビの向こう側」の記者の「熱量」を伝えたい

所信表明を記した最初の記事にも、その思いが込められていました。

これまで「テレビの向こう側」にいた伝え手たちの「取材ノート」にスポットをあてて、それぞれが抱く熱い思いや「こだわり」、そして伝えきれなかった取材ストーリーを、取材者の横顔や素顔も見える形で伝えたいと思っています。

「テレビの向こう側」にスポットを当てる。
その姿勢が高く評価され、多くの共感を得られた記事のひとつが、「『ごめんなさい 救助のヘリじゃなくてごめんなさい』」というわけです。

クリエイティブな仕事とは、あらゆる可能性を試すこと

NHKの記者は、取材した内容をもとに、アナウンサーが放送で読むための原稿を書いています。普段から人に伝えるための文章表現の訓練は積んではいますが、それでも、noteに記事を掲載するときには試行錯誤を重ねます。

初期の段階で原稿を見せ合い、構成を大胆に変えることもあります。「ですます調」にするか「である調」にするかで悩んで2パターン作ってみたり、登場人物が多すぎて読みにくい原稿を、擬似一人称で書き直したこともありました。

記事「『不都合な真実』を暴くため、彼女はシベリアに飛んだ。疾走600キロ、ついに遺体が埋められた場所に…」は、熊田さんが「読みやすさ」を第一に考えて編集した記事です。

「シベリア」「遺骨」といった身近ではないテーマですが、記事を読んで考えてもらうためには「とっつきやすさ」「読み進められる文章」が欠かせないと考えたからです。

一方で、記事「死に慣れて、いいはずがないのに」は、あえて、読みづらさを残した記事だそうです。

「NHK取材ノート」編集部では、編集した記事をほかのメンバーに見せて意見を出し合っています。実はこの記事は、最年長の熊田デスクが編集した内容に、デスク最年少の松枝さんが「ちょっと待った」をかけました。

「熊田さんの編集した記事は、ドラマチックで、しかも、とってもわかりやすいなと思いました。

ただこの記事は、石巻で取材をしていたら津波がきて、一時、連絡が付かなくなったという体験をした記者本人が、いま10年たって、被災地について、そして自分が報道してきたこと、正解が見つからずに悩んでいることについて書いた記事でした。

記者が書いた初稿(最初の原稿)と、熊田さんが編集した記事を比べると、熊田さんが編集した記事の方が圧倒的に読みやすかった。でも、流れるような構成できれいに作ると、津波に襲われた記者が感じたことや思いが少し薄まってしまうと感じました。

読みづらい原文の記事にこそ、記者の正直な思いや惑いがある。そこが肝なので、直さないほうがいいと提案しました。

そこで再検討の結果、じゃあ、松枝案にしてみるか! ということで、公開された内容になったのです。」(松枝さん)

実際にこの記事を編集した熊田さんは、「やろうと思えばもっと読みやすく再構成できたと思いますが、最終的にはそのままにしました」と語ります。

「よく言っているのは『未完成な同人誌的な熱量』が強いかどうかです。きれいに仕上がったものより、ゴツゴツ感があったほうがいいこともありますし、もちろん、その逆のパターンもあります。どちらが正解かはわかりません。」

「クリエイティブな仕事とは、あらゆる可能性を試すことです。」(熊田さん)

04杉本さん小倉さん

「NHK取材ノート」編集部のメンバーである記者の(左)杉本宙矢さん、(右)小倉真依さん

このような試行錯誤ができるのも、「NHK取材ノート」編集部が企業内サークルやクラブに近いフラットな関係性を構築しているからです。

編集部はデスク3人、現場の記者3人という6人体制。3人のデスクを置いたのは、「執筆スタイルや構成の工夫がそれぞれ違い、表現が多様になる」から。そのためメンバーも原稿を持っていきやすく、好き勝手言い合える雰囲気で議論を重ねられます。

また、全員が通常のニュース取材やサイト制作、Twitterでの発信などの本業(報道局ネットワーク報道部)との兼務。毎週1回月曜日の18時から1時間、定例のミーティングをオンラインで開いて、記事の構成の検討や進捗状況の確認をしています。

そして、原稿に締め切りは設けていません。
「ほかの業務も相当忙しい中でやるので、『締め切りの設定はやめませんか』と提案しました。締め切りやノルマに追われると楽しくできないですし、それに苦しめられると続けられないと思ったんです」(松枝さん)

noteは、失敗や挫折を語れるフォーマットである

「取材ノート」を始めて編集部内にも変化が起きました。
自分たちが当たり前と思っていたことへの気づき」です。

冒頭で紹介した記事「『ごめんなさい 救助のヘリじゃなくてごめんなさい』」は「意外と自分たちの強みをわかっていなかった」ことに気づいた好例です。NHKのヘリコプターは緊急報道に備え、365日スタンバイしています。NHK職員にとっては当たり前すぎたのですが、読者からは「24時間365日備えていたんだ……」とか「たしかに災害報道ってそこまでしないとできないですよね」という反応がありました。

03成田記者

大阪局の成田大輔さん。震災時ヘリコプター取材の裏側を描いた「『ごめんなさい 救助のヘリじゃなくてごめんなさい』」、続編の「報道ヘリは救助の妨げになっていないのか? NHK航空デスクに聞いてみた」の取材も担当

伝え方への姿勢が変わったという声もあります。

「noteを始めて、取材や表現への向き合い方が変わりました。報道ではシビアに事実を確認しますが、まっさらなnoteに向き合うと、いままでの枠が取り外され、どう伝えたらいいのかを考えるようになりました。『情報』と『文章』への向き合い方は違うのかもしれません。」(杉本さん)

05PCを覗き込む松枝さん小倉さん

また、取材がすべて成功するとは限りません。そして失敗した取材の方が、強く心に残っていることも多い——。

記者たちにとってnoteは、そうした失敗や挫折をも語れるフォーマットなのだ、と彼らは語ります。

「失敗談をきちんと出せる場があることで、その体験もいつか書ける、と取材姿勢も変わりました。『正しくないといけない』と思ってると、当たり障りのないコンテンツしか作れません。失敗してしまったことも含めて経験を伝えられる場所があると、記者という仕事もいいなと思ってもらえるのではないでしょうか。」(杉本さん)

「NHK取材ノート」の評判を見て、NHK内の他の部署からも「noteに書きたい」という声が上がるようになりました。記者だけではなく、カメラマンやアナウンサー、ディレクター……実にさまざまな職種から執筆希望がきました。

「みんな、思いの丈を吐き出す口がようやくできたと思っているようです。noteは『正しい記事』どころか、正解を出していません。これが正しい、ではないからこそ、それを超える表現ができます。『絶対に間違えてはいけない』という呪いから脱する表現がnoteでできたのは、よかったと思います。」(熊田さん)

06改善ポイント

「取材者も1人の人間」

記者も、疑問を持ったり、正義感を持って取材をしていますが、ときにはオロオロしたり、落ち込んだりと、けっしてステレオタイプな「何か」ではありません。その内幕や、伝えてる人間が読者と同じ人間であることが「NHK取材ノート」の記事ひとつひとつから伝わってきます。

そして今回のインタビューで、「伝えること」のプロフェッショナルであるNHKの記者も、記事を制作する際は、記者自身の葛藤や疑問を抱えながら、さまざまな可能性を議論し、推敲を重ねて制作されていることがわかりました。

「NHK取材ノート」はいまや、多くのフォロワーがつくアカウントとなり、取り上げたテーマがSNSでの活発な議論を呼ぶこともあります。届いていないと感じていた層へのアプローチにも成功しているようにも見えます。

しかし「結果を出さないといけないとも感じています」と足立さんは続けます。

「私たちのいう結果とは、収益でも、PV数でもありません。未来の課題を解決することです。noteに記事を書くことで、課題解決につながる活動につながればと考えています」(足立さん)

今後、どんな取材ストーリーを読ませてくれるのでしょうか。「NHK取材ノート」のこれからが楽しみです。

07取材ノート

■プロフィール

熊田安伸 
1990年入局で編集部では最年長。そろそろ残りの記者人生をどうするか思案しているお年頃。記事のタイトルはいつも最年少の杉本君にチェックしてもらっています(笑)。取材ノートにはライフワークである「調査報道シリーズ」などを展開。自らの体験を記事にした「3か月で辞表を書いた俺に、彼が教えてくれたこと」も執筆。波瀾万丈の生活を送ってきたので、詳しいプロフィールはそちらを参照してください。

足立 義則
1992年にNHK記者になり社会部や科学文化部で主にネットやサブカル担当。その後は報道のデジタル展開を担当してSNS情報キャッチと発信、webサイトやVR、ARなど先端コンテンツ、アプリ開発など担当しています。

松枝一靖
1999年入局。10年間在籍した社会部では、警視庁など事件取材を主に担当。2017年の立ち上げ時から熊田、足立両デスクとともにネットワーク報道部。「NHK取材ノート」×「事件取材」の別ブランドとして、「NHK事件記者取材note」も2021年2月に立ち上げ。コロナ渦の在宅勤務中心の生活で体重増加が止まらない……。

成田大輔
2003年入局。2016年から3年間、仙台局で震災関連の番組などを制作。ネットワーク報道部を経て、今年3月下旬から大阪局で主にニュースのデジタル展開を担当。震災を知らない小学生の娘と息子にヘリのnoteを読ませたら、感想は「#成田大輔って何? 誰も検索しないよ」と。違う、そこじゃない。

小倉真依
2007年入局。鳥取局・大阪局では事件、盛岡局では震災関連の企画や番組を制作。首都圏局では、都庁担当として新型コロナの対応や防災、教育を取材。去年9月からはネットワーク報道部で、性的マイノリティーの人たちなどをテーマに記事を書いています。

杉本宙矢
平成元年生まれ、2015年入局。「取材ノート編集部」では最年少。熊本局を経て去年9月からネットワーク報道部。同期も後輩もいないのが少し寂しい……。「生きづらさ」を主なテーマに取材中。熊本での5年間で、熊本地震や令和2年豪雨に遭遇した。61年ぶりに仮釈放された無期懲役囚に密着した『日本一長く服役した男』などの番組制作も。

■クリエイターファイル

NHK取材ノート
NHKのニュースや番組をつくっている私たちが取材に込めた思いや取材手法などをお話します。一緒に「取材ノート」をつくっていきましょう。サイトはhttps://www.nhk.or.jp/d-navi/note/ 利用規約はhttps://nhk.jp/rulesnote
note:https://note.com/nhk_syuzai


interviewed by 中野麻衣子・漆畑美佳 text by 野本響子・本多いずみ
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