採用活動に必要な企業の発信手法とは?石倉秀明さんに聞くnoteとSNS活用
近年、リモートワークの普及や働き方の多様化に伴い、企業の採用活動も大きな変革を迫られています。優秀な人材を確保するためには、従来の手法だけでなく、noteやSNSを活用した情報発信が欠かせません。
そこで今回は、「働き方」を研究するAlternative Work Lab所長で、書籍『これからのマネジャーは邪魔をしない。』なども上梓されている石倉秀明さんをゲストにお迎えし、noteやSNSを通じて企業の情報を発信するポイントについて深掘りしました。
※本記事は2024年4月4日に開催された「noteとSNSで広がる!企業の情報発信戦略」のイベントレポートです。
これからの会社に求められるのは「社員にいてもらう理由」
——はじめに石倉さんが考える「これからの会社」について教えてください。そもそも今、企業全体で何が変化していますか?
石倉さん(以下、石倉) 最近僕が思っているのは、働く人にとっての「会社」は、自分の市場価値や描くキャリアを実現するための「場所」でしかない気がします。
例えば、多くの人がSlackなどのチャットツールを使っていると思いますが、カーソルを切り替えるだけで他の会社のワークスペースがあるわけです。物理的には1つの場所にいても、複数の組織に所属している状態が当たり前になりつつある。 かつSNSなどを見ると、いろんな会社の人がキラキラ輝いているのが見えるんですよね。
それは良い面も悪い面もありますが、自分の状況と比較して焦りを感じたり、逆に「自分の会社っていい会社だな」と思ったりする要因になる。このように今の時代は、働く人のもとに否応なしに情報が入ってきて、他社と比較しやすい状態です。
石倉 そんな中で、会社側は社員にいてもらう理由をちゃんと作っていかなければならない。それが、これからの会社に求められることだと思います。
——確かに、かつては1社に勤めることが当たり前で、そのまま終身雇用も期待されていました。しかし、今は新入社員の3分の1が入社後数年で辞めてしまうと聞くと、雇用の流動性が高まっていることがわかりますね。
石倉 実は新入社員の3分の1程度が入社後数年で辞める傾向は、ここ20〜30年ほど変わっていません。ですが、その理由や背景は比較的変化していると思います。
最近の新入社員は、入社時点ですでに転職サイトに登録している人が3割ほどいるそうです。これは単に転職を考えているからではなく、今の職場が自分の望むキャリアに合っているのか、将来に不安を感じているから。
新入社員は、自分が望むキャリアに対して、「本当にその路線に乗っているのか?」を常に意識している。だからこそ今の会社がそれを実現してくれる場所ではないと感じた場合、いつでも他の選択肢に移れるように、転職サイトへの登録というセーフティーネットを張っているんだと思います。
つまり転職は単なる職場の変更ではなく、自分のキャリアを守り、望むような成長を遂げるための手段として捉えられている。そのため企業には、従業員のキャリア形成に対する意識を理解し、それに応えられる環境づくりが求められます。
自社の情報を出すタイミングを見定める
——ここからは企業の情報発信の部分に移りますが、石倉さんがXにあげていたある投稿が話題になっていましたよね。石倉さんをスカウトするために、100社以上の企業がスカウトを送ったわけですが、そこで石倉さんが感じたことが綴られています。
石倉 結構みなさんがスカウトを頑張る時って、「文面をなんとか魅力的に」と思いがちですが、残念ながら文面自体にそんな差はでないんですよ。
多くの企業からスカウトを受け取って感じたのは、本文から会社や事業、組織のことがわからないと、応募につながらないということ。そもそも会社のことを知るためのリンクや資料がなくては判断できないなと。
確かに気になったら、会社名や社長名を検索してみますが、やはり情報が少ないとどういう会社なのか、なぜ募集しているのか背景までイメージできません。そのため、自分に合うか合わないかの判断ができないまま、最終的に応募しないパターンが9割以上でした。
——9割って結構衝撃的な数字ですね。
石倉 そうなんですよ。採用において、一番ハードルが高いのは、まず1回目の面談・面接に来てもらうこと。おそらく、会社の詳しい話は面接で話せばいいやと思って、事前に情報をあまり出さない企業が多いと思うのですが、そもそも一番ハードルが高いところで、全力で情報を出しておいてほしいなと。多くの企業は、その点のファネルの設計から間違っているなと感じました。
例えば、求職者が知りたいのは、その会社の考え方や社員の様子など、多面的な情報。他にも経営者が大切にしている価値観や、会社の特徴的なエピソードなどです。
——求職者は企業のリアルな情報を知りたがっていますよね。会社の特徴って、どんなイメージですか?
石倉 よくベンチャー企業などでは、「裁量権がある」「1年目から任せる」といったことを謳いがちですが、それだけでは差別化にはなりません。本当の差は、その会社の文化を表すエピソードにあると思います。
例を挙げると、入社1週間後に1人で韓国出張に行った社員がいるというエピソードは、その会社の裁量権のレベル感を如実に表していますよね。ですが、多くの企業では、このようなエピソードを積極的に発信していません。求職者にとって、それが一番知りたい情報であり、差別化にもつながるはずなのに、です。
もちろん、そのようなエピソードを聞いて、「すごい」と感じる人もいれば、「いきなり任されても困る」と感じる人もいるでしょう。しかし、そのような反応があるからこそ、企業はエピソードを発信することで、自社の文化に合う人材を集めることができるのです。
——なぜ企業は、自社の文化を表すエピソードを発信しないのでしょうか。発信することへのリスクを感じているんですかね?
石倉 情報発信をする人が自社の文化に慣れ親しんでいて、何が自社の差別化ポイントなのかを深く考えていない可能性があります。社内にいると、自社の特徴的な部分も当たり前のことになってしまい、外部から見た際の差異に気づきにくくなるのかもしれません。
また、社内で「自社らしさ」のような会話を、あまりしていないケースもあるはず。ふんわりしたとしても、具体的なエピソードレベルで話し合う機会は少ないのだと思います。この辺が明確にならない限り、多くの求職者は「よくわからないから有名企業に行ったほうが安心」という心理になるのではないでしょうか。
——今の企業の傾向について、徐々にわかってきました。ここまでいろんなお話を伺いましたが、企業が採用のためにSNSで発信するとしたら、何からはじめればよいですか?
石倉 まず大事なのは、発信の「量」を確保することです。月に1本noteを書く程度では、なかなか存在感は出せません。発信が大変だったら、Xで毎日1投稿でもいいので、さまざまなテーマや企画を決めて定期的に発信していくといいかもしれません。
毎回のネタ探しは大変なので、例えば月曜日は社員紹介、火曜日は部署の紹介のようなイメージで、何を書くかを決めて、ひたすら運用するのがおすすめです。
面接で「記事を読んだことある率」を重視
——noteやSNSでの情報発信の効果は、どのように測定すればよいでしょうか?
石倉 僕がみているのは「面接に来た人の中で、自社が出したコンテンツを1本でも読んだことがある人の割合」です。その割合が100%に近づいていくと、おそらくスカウトの返信率や、エージェントからの応募率も上がっていくでしょう。
また、転職を考えた時「リモートワークを推進している会社といえば、うちだよね」といった具合に、候補として思い浮かべてもらえるかどうか。そこを一つの指標として意識すること以外、他の指標は特においていません。
——石倉さんのお話を聞いて、社内でSNSを活用した採用広報を頑張ろうと思った方も多いと思いますが、やはり社内の仲間は必要ですよね?
石倉 実は僕の場合、1人で勝手にやり始めたんですよね。とにかくはじめてみることが必要だと思って。毎日投稿は無理でしたが、週3本の記事を書いたり、Xに投稿したりしました。そしたら面接の中で「石倉さんのXを見て、御社を知りました」のような反応が増えてくるんですよ。そうすると社内でも「結構SNSでの発信って意味があるんじゃない?」といった雰囲気になってきて。
——すごいですね。確かに成果を出されたら、効果を認めざるを得ないですもんね。そうなると石倉さんのように、まずはSNSが得意な人がはじめてみるのもいいんでしょうか?
石倉 正直僕も以前は、SNSをあまり使ったこともないし、むしろ苦手なくらいでした。なので完全に業務だと思って最初はやっていたんです。
それでも、当時SNSで結構有名でフォロワー数が多い知り合いなどに「すみません。どうすればフォロワー数が伸びるのか、教えてください」と、教えを請いながら、少しずつフォロワーを増やすことができました。
——それは勇気づけられますね。たとえ反応が少なくても、発信を続けてみる。それだけで、必ず状況は変わってくるのですね。本日はありがとうございました。
▼イベントのアーカイブ動画は以下からご覧いただけます。
登壇者プロフィール
石倉秀明さん
Alternative Work Lab所長
山田進太郎D&I財団 COO
2005年に株式会社リクルートHRマーケティング入社。その後、リブセンス、DeNA、起業などを経て2016年より株式会社キャスター取締役COOに就任(2021年より取締役CRO)。2023年10月の東証グロース市場上場に貢献し、2023年12月からは働き方について研究、調査を行うAlternative Work Labを設立し所長。2024年2月山田進太郎D&I財団COO就任(兼任)。FNN系列Live News α、アベマヒルズレギュラーコメンテーター。
モデレーター
徳力 基彦
noteプロデューサー/ブロガー
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interviewed by 徳力基彦 text by 須賀原優希