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ちいさなお店がSNSで注目されるには?広告プランナーが考えるSNS術

noteやTwitterを、企業はどのように組み合わせて活用していくべきかを考えるイベント「noteとTwitterでつくる新しい企業コミュニケーション」。今回は書籍『なぜウチより、あの店が知られているのか?』(宣伝会議 刊)の著者である嶋野裕介しまの ゆうすけさんと尾上永晃おのえ のりあきさんをゲストにお迎えしました。

第一線で活躍する広告プランナーのお二人によると、企業やブランドがSNSで情報発信をするときは、「客観視」を持ち、 自社のサービスや商品を、お客さんが興味を持つかたちにすることが大事なのだそう。

今回は書籍の内容をもとに、個人店やスモールブランドが、SNSを使って世の中に知られるための考え方を中心にお話を伺いました。

※この記事では、「X」の表記をシリーズタイトルに合わせて「Twitter」とします。

ゲスト
嶋野裕介しまの ゆうすけさん
電通 zero 
クリエーティブディレクター/PRディレクター

尾上永晃おのえ のりあきさん
電通 zero 
プランナー・クリエーティブディレクター


スモールブランドにとっては「知られているかどうか」が大事

——お二人とも普段の業務は大企業向けのマーケティング支援が多いと伺っています。でもこの本では、ちいさな会社やブランドの情報発信について書かれているとか。

嶋野 はい。ちいさな会社も大企業も、情報発信は非常に大事ですよね。結論から言ってしまうと、本書ではnoteやSNSでの情報発信における「客観視」の大切さを伝えています。客観視を持つと、他社の商品やサービスとの違いが明確に打ち出せるため、お客さんに興味を持ってもらったり注目されやすくなったりします。しかも、その状態が長く続きますよ、というのがこの本の趣旨です。

——ちいさな会社やブランドは増えているんですか?

嶋野 ネットショップ作成サービス「BASE」の事例をご覧ください。2012年11月のサービス開始から100万ショップ開設になるまで、大体8年かかっています。それが2020年5月〜2021年5月の1年間で50万ショップもグっと増えているんです。

コロナ禍のタイミングで、お客さんが直接お店に行けないからこそネットでビジネスをしよう、という方が一気に増えたことがデータから見えます。個人の方や、今まで街の中でビジネスを完結してきた方も、あえてオンラインショップを出して、これまでの商圏外から買ってもらうことが当たり前になってきました。

このようなスモールブランドでは、すごく熱量の高い個性的なお店やブランドが人気がありますし、可能性も広がると思います。

また、コロナ禍の影響はコミュニケーションツールにもあり、実際、アライドアーキテクツの調査では、Twitter(現X)の利用頻度が増えています。SNSは深く心をつかむことに向いており、想いの強いスモールブランドにとって、効率的に知ってもらう重要なツール。ネット上にたくさんお店が溢れているいま、「知られているかどうか」が重要なポイントになります。

「正しく」「いい感じ」に知られるには?

——知ってもらうための注意点はありますか?

嶋野 「いい知られ方」と「悪い知られ方」があることです。
いい知られ方というのは、自分のやりたいことや本来持っている強みがちゃんと伝わっていること。無理してはしゃぐのではなく自然体でやっていることが、結果的に世の中に知られるのがいい。無理をしないからこそ一度きりではなく、継続して情報発信ができます。

一方、悪い知られ方はこの逆です。自分が本来やりたいことや強みとは関係ないことで、ブランドが知られてしまうことですね。例えば商品のおいしさを知ってほしいのに、ダンスがバズってしまったとか。

もちろん知ってもらうためのスタートとしては素晴らしいことですし、SNS担当者がダンス好きだったらいいんですけれど、嫌いだったら辛いことになるかなと。無理をしているから続きませんし、変に知られるとアンチが増えることもあります。もったいないですよね。

——あるあるですね。バズることが目的になると、本当は売上を上げたかったはずなのに、ブランドが毀損しちゃうみたいな。

嶋野 本質と関係ない「バズ」は売上や次に繋がらないことも多いので、メリットは少ないと思います。

「いい知られ方」を身につけるには「客観視」をもつ

——「いい知られ方」をするには、どうすればいいでしょうか?

尾上 それが冒頭で申し上げた「客観視」をもつことです。客観について考えているときに、「客」「観」なので「お客様目線で自分を見る」ことなんだなと嶋野さんが気づきまして。

尾上 主観は「自分の目線で見る」ことですが、客観は「向こう側から自分をみる」やり方なんですね。いろいろな方に取材した結果、次の3つのプロセスがあると考えました。

1.現在の客観(今の環境から周りを見る)
「なぜこれが流行っているんだろう」と思ったら、それを体験して、どういうものが人気なのかを自分なりに把握する。次にその視点で、自分がやろうとしていること、やっていることを見てみる。“現在”と“自分”を同期させるという考え方です。

2.ヒットの客観(過去の成功事例を見る)
「過去の客観」ともいいます。過去にどんなものがウケたのか、逆にウケなかったのかを観察することです。タピオカが20年周期で流行っているように、流行の周期と今の自分の商売を合わせて考えてみる。過去を知れば知るほどアイデアや打ち手にも繋がります。

3.自分の客観(自分の原点と強みを見る)
自分は何でこの商売を始めたのか、その商売で何を一番大事にしたいのか、そもそも何でそれを大事にしたいのかを考える視点です。目の前の商売が忙しいと、その場の最適解を出そうとしがちです。その時、自分の商売の原点に戻ることが大事になります。

この3つが重なる部分が見つかると「客観視」ができます。次はいったん「客観視」を自分の体の外に出して「言語化」してみましょう。

「言語化」することで軸(原点)が定まる

嶋野 言語化とは何かがわかる事例を2つ紹介しましょう。

スターバックスは「サードプレイス」というコンセプトが有名です。自分の家と会社とかの間にある、もうひとつのいい場所という意味ですね。スターバックスコーヒージャパンのホームページを見ると、サードプレイスとは何か、そのためにどういうふうに何を大事にするのかが書いてあります。

面白いのが、いきなりコーヒーの話をしているわけではないということ。味や提供物ではなく、関与するパートナー、コーヒー、お客様が大事ですと書いてある。

サントリーグループの企業理念のページも同様です。こちらも、貴重な水資源を守る、企業活動を通じて社会に潤いをもたらす、という理念が明確に書いてあります。

言語化がなぜ大事かというと、迷ったときにブランドが目指し、立ち返る場所になるからです。言葉自体が場所になります。なぜ私達はこのビジネスをしたいのか、何を伝えたいのか、どういうお客さんにこれを買ってほしいのか。言葉は、独楽コマの真ん中の軸です。この軸が明確で強ければ強いほど長く回れますし、周りを巻き込んでいけます。

一方で、お客さんやスタッフなど周りの人たちが増えるほど、少しずつ皆が考えていることがズレていきます。そのときに明確な言葉があれば、このビジネス、この会社、このメンバーの「軸(原点)はここ」とわかる。

はっきりした言葉がある企業であればあるほど、その企業を長く続けることもできるし、仲間とも強く意思疎通ができると思っています。

——SNSをいきなり宣伝に使うのではなく、自分たちは世の中に対してどういう存在なのかを整理して言語化し、軸を作ってから発信するべきだと。

「言語化と映像化、どちらに力点をおけばいいでしょうか」という質問がきています。いかがでしょうか?

尾上 僕らが映像化を考えるとき、映像を見てストーリーを考えることはなく、やはり言葉で考えますね。なので言語化が先だと思います。

映像にする場合は、時間軸を表現したり、感情を乗せたり、品質感を高めたり、そういうときでしょうね。

——商品や業種にもよりますが、SNSもショート動画が重要になってきているので、映像化もちゃんとやったほうがいいと僕も思います。また、映像化の理由が言葉になっていると、どんな映像が作りたいか説明しやすくなりますね。

伝えるべき相手や内容によってSNSを使い分ける

尾上 noteやTwitterでブランドが知られるようになった事例を2つ紹介します。まずは、パンと日用品の店「わざわざ」の事例。長野県の山奥に実店舗があるのですが、その場で焼かれたパンと、よそではあまり見ない日用品が所狭しと並んでいる、ずっと探索したくなるお店です。知られるためにSNSをいろいろやってきて、今や年商3億円のブランドです。

代表の平田はる香さんの著書『山の上のパン屋に人が集まるわけ』(ライツ社 刊)から抜粋しましょう。

「山の上」というハンディキャップから、声をあげないと見つけてもらえないという強迫観念に近い感覚もあって、まずは人に見つけてもらうことが大切だと、必死にやっていきました。

『山の上のパン屋に人が集まるわけ』 p.166

見つけてもらわなきゃいけないという気持ちが、場所性ゆえに強かったと。でも僕は場所は関係ないと思っていて、今はオンラインで店が爆発してる状態だからこそ、見つけてもらうことが大事ということに繋がります。

「なぜそこまでの需要をつくり出せたか」ですが、1つめは、当時流行り始めていた無料ツールであるSNSを、いち早く活用できたからだと思います。

『山の上のパン屋に人が集まるわけ』 p.165

平田さんの個人noteにも経緯が書かれていますが、ブログから情報発信を始めて、当時流行していたFacebook、雑貨を綺麗に見せるためのInstagram、お客さんとコミュニケーションをするためのLINE、活動をストーリーとして見せるためのnoteと、ツールを並行して使っています。伝えるべき内容や、コミュニケーションを取りたい相手によって、メディアを変えていきながら学んでいくスタイルを続けられています。

ブランドの定義づけの大切さは、平田さんの衝撃的な記事「来ないでください。」が象徴的でしょう。テレビで「パン屋」と紹介されたために、普段は来ないような横柄なお客さんが来てしまった時に書かれたものです。「真摯に対応しているのに怒るような人は来ないでほしい、自分たちはこういう人たちに来てほしいんだ」というブランドの定義が明確に書かれています。こういうやり方もあるんだなという学びがありました。

——noteの中でも非常にカリスマ的な事例ですが、地道に試行錯誤をやっているからこそ、ここにまでたどり着いています。ある意味、客観視を延々とやり続けて積み上がった事例と言えますね。

Twitterの投稿にnoteのURLも掲載してバズりに繋げる

嶋野 次は「鮨ほり川」さんの事例です。発信方法を工夫することで老舗のお店が話題になったケースで、Twitterとnoteの連携が面白いと思います。
ほり川さんは、コロナ禍で予約がゼロになったタイミングにnoteで「73歳寿司屋のnote【現役】」を始めました。先日お誕生日を迎えて、今は75歳だそうです。

最初のnoteでは、仕入れにこだわっている様子などを写真入りで紹介しています。しかしこれだけだと、よくあるお寿司屋さんの投稿ですよね。ポイントは記事の下のほうに書かれている「一番人気はくだものにぎり」の一文。

魚介類以外のお寿司がまだ珍しいときに、「くだものにぎりが一番人気なんです」と言い切っているんです。そして、最後に「楽しくなきゃ寿司屋じゃない」で締めている。これが若い20代の店主ではなく、73歳の方が言っているところが、インパクトも含めて非常に注目されたのだと思います。

ただ、いきなりバズったのではないと聞いています。きっかけはTwitterに書かれた「今日からずっと、まだご予約が0件です」という投稿。Twitterは炎上などの負の側面もありますが、もうひとつ、人間の善の側面——困っている人を助けようとする側面もあります。このツイートが非常にバズり、一気に1. 2万いいね!と、1万件近いリツイートが付いたそうです。

ほり川さんは、投稿に工夫をしていました。Twitterの投稿の下にnoteのURLを入れておいたんです。Twitterだと4枚の写真しか伝えられないけれど、noteだとたくさん情報を伝えることができる。するとnoteを見た人が、面白いおじいちゃんがやっていて、しかもこんな面白い握りがあるんだ、と一気に火がついた。

Twitterはバズって終わることが多いんですが、この事例ではバズった後にnoteがあることで、より深くほり川さんの仕事を知る機会ができました。

——戦略的ですよね。大体、バズったから慌てて下にリンクを載せるのが一般的なパターンだと思います。

嶋野 僕は、芸人さんにおける、テレビと舞台の関係みたいだと思っています。テレビに出ると沢山の人に知られますが、3分くらいしかネタを見せられない。でも舞台での単独ライブだと1時間くらい見てもらえる。単独ライブを見せることによって、ちゃんとしたファンが付くので利益にもなります。これがnoteの役割。多分Twitterだけだと、こんなに話題は広がらなかった。結果的にテレビでも取り上げられました。

情報発信は、書くだけでなく、知られる努力をするまでがセット

——多くの人が、効果測定の正解を知りたがります。

嶋野 効果測定の考え方は難しいんですが、答えはシンプルだと思います。
まずはアクセス数を広告換算すること。しかし勘違いしてはいけないのが、noteのアクセスと、いわゆるバナーのインプレッション(表示された回数)は違うということです。

バナーをクリックするだけの人は、その先の情報を本当に読んでいるかはわかりません。対してnoteの読者はきちんと読んでくれるという付加価値があります。ですので、クリックした先の数字、いわゆるCTR(ユーザーに表示された回数のうち、ユーザーがクリックした回数の割合)を広告換算しましょう。

——広告バナーは100万インプレッションとか、すぐに大きな数値になりますよね。でも、noteの記事を読んでくれた人は、バナーを見ただけの人よりバナーをクリックした人に近いと考えて比較すると世界が変わります。

100万インプレッションのバナーでも1000人しかクリックしてくれない場合、1クリックが100円かかると仮定すると、1000人誘導(クリック)した価値が10万円ということになります。

ならば、1000ページビューのnote記事も、実は同様に10万円の価値があるかもしれない、とあえて広告換算してみるということですね。

嶋野 はい。そして、noteの情報はパッケージデザインの一部と考えてください。

パッケージの見た目がきれいというだけで買う人と、裏面の成分表まで読み込んで買い物をする人では、エンゲージメントが違います。noteに書かれたお店の想いやこだわりは、パッケージの成分表や裏面と同じように、読んでくれた人の信頼につながり、お客さんとの深い繋がりが生まれます。

尾上 生活者は興味を持った商品を調べるので、その受け皿になると思います。

嶋野 最後にこれだけは覚えて帰ってほしいのが、noteやTwitterで書いて終わりではなく、知られる努力までがセットであるということ。仕事として自分のビジネスをnoteやTwitterで知ってもらいたい方は、中身はもちろん、知られてはじめてそのビジネスは存在すると思ってください。

ネットでの商売は、簡単に始められると考えられがちですが、むしろ逆で、日本全国、世界との戦いの中で、ただひとつに選ばれなければいけないんです。少しでも知られるための工夫ができるのが、noteとTwitterのコラボの総価値ではないかと思います。

※敬称略

▼この記事のもとになったイベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

ゲストプロフィール


嶋野裕介さん
電通 zero 
クリエーティブディレクター/PRディレクター

東京大学経済学部卒。ブランドマーケティング論を専攻。 マーケティングプランナー、営業職を経てクリエイティブ職へ。 主に飲料メーカー、自動車メーカー、地方自治体などのPR・プロモーションを担当。 国内外のアワード審査員などを務める。好きなものは、新聞と暗号。
Twitter

尾上永晃さん
電通 zero 
プランナー・クリエーティブディレクター

企業広告からまちづくりまで臨機応変なコミュニケーション設計をしている。最近の主な仕事は、ネットフリックス「ジャイアント猿桜像」、森永乳業リプトン「#667通のラブレター」、TOKYO GAME SHOW VR、コピー年鑑2022編集長、宮本浩次「宮本独歩」、越後鶴亀ブランディングなど。カンヌやメディア芸術祭などさまざまな賞を受賞。好きなものは、料理と読書。
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interviewed by 徳力基彦 text by 本多いずみ