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3年で累計1億PV!「となりのカインズさん」編集長に聞く、ファン創出につながるオウンドメディアの作り方

オウンドメディアを立ち上げた目的や、運営を続けていくための成功ポイントについて、企業担当者にインタビューするイベント「実践企業に学ぶ オウンドメディア成功の秘訣」。

今回は株式会社カインズで、オウンドメディア「となりのカインズさん」二代目編集長を務める与那覇一史よなは かずふみさんがゲストです。創刊から1年で月間400万PVを達成した「となりのカインズさん」。コンセプトや大事にしていることについてお話を伺いました。


オワコン時代に現れた「となりのカインズさん」

——「となりのカインズさん」とは、どのようなメディアでしょうか?

与那覇さん(以下、与那覇) ちょうどコロナ禍だった2020年の6月に創刊したオウンドメディアです。コンセプトは「ホームセンターを遊び倒すメディア」。創刊から半年で月間100万PVを記録し、1年以内で月間400万PVに到達しました。

実績として、小売業界の集客/販促支援プロモーションを表彰する「第6回リテールプロモーションアワード」や、「コンテンツマーケティング グランプリ2021」を受賞しています。

──いまや「企業オウンドメディアの成功事例」として代表的な存在ですが、実は後発ですよね?

与那覇 そうです。創刊した2020年は、ちょうどオウンドメディアが「オワコン」といわれていたど真ん中のころですね。

与那覇さん写真
与那覇 一史さん
株式会社カインズ マーケティング本部 メディア戦略部

——どのような特徴があるのか、教えていただけませんか?

与那覇  「となりのカインズさん」の特徴は、キャッチコピーにもなっている「メシの横にムシ」。苦手な方がいらしたら、ごめんなさい。トップページの右上にはお菓子、その隣にミミズ、さらに下にはアリやカナヘビがいます。

「メシの横にムシ」を体現するトップページの記事の並び

──まさしくホームセンターですね。「となりのカインズさん」を運営する上で、大切にしていることは何でしょうか?

与那覇 一般的なメディアは、記事を同じジャンルでまとめて記事を掲載すると思うのですが、私たちはこのホームセンターらしい“手触り感”を大切にしているんです。

大事にしているのは「社内マインドの変化」「ファン創出・売上拡大」

与那覇 運営で大切にしていることは7つあるんですが、中でも「手触り感」に直結しているのは、「凄まじいB面にフォーカスする」という考え方です。

ひとつ例を挙げますね。カインズの中に、スリランカが何よりも好きなメンバーがいまして。スリランカカレー用のスパイスを育てるために、自宅に温室を設け、電気・ガスを一切使わずにスリランカカレーを作っている「狂気のひと」がいるんです。

店舗生産性改革部に所属しているメンバーなのですが、普段はそうした一面は見えません。そういった、メンバーの普段は見えない「B面の顔」を紹介しています。

スリランカカレーを愛するメンバーの記事

与那覇 そもそもオウンドメディアは採用や広報、マーケティングなどさまざまな目的で運営されるもの。私たちがオウンドメディアを始めた目的は「社内のマインドの変化」と「ファン創出・売上拡大」の2つです。当社は「社内マインドを醸成するコンテンツが、ユーザーに届くようにする」「届けるための仕組みを整える」ことをもっとも重視しています。その結果が、ファン創出・売上拡大につながっていくのではないでしょうか。

くらしの役に立つことはもちろん、役に立たないことも遊び倒せるメディアでいたいですね。

組織文化を大きく変えた、顔と実名

──社内マインドを変えた、手応えを感じた企画について教えてください。

与那覇 先ほども触れた、凄まじいB面にフォーカスする企画です。

ミニトマトバイヤーのメンバーの記事

与那覇 ミニトマトのバイヤー歴15年の、社内の生きる伝説といわれるメンバーを紹介しましょう。この記事では、趣味と仕事が完全に同化し、ミニトマトに愛情を注いでいる姿を紹介しました。このメンバーは、ミニトマトに取り憑かれてしまい、ミニトマト栽培のために庭にあった金木犀きんもくせいを伐採して78株も育てているんです。

こういった記事は非常に反響も大きく、編集部としても「しっかりとメンバーを紹介していこう」と意識して作成しています。

──立ち上げ当初は、社員の顔出し・実名出しがNGだったそうですね。まさに「社内のマインドの変化」が表出している状態だと感じます。

与那覇 そうなんです。昔の記事を見ると顔写真は下半分だけ、名前は「バイヤーMさん」とだけ表示されているのが当たり前でした。

ところが読者からの反響が少しずつ増えるにつれて、社内の空気感もどんどん変わっていったんですよ。

ボッシュの社員へのインタビュー記事
社員顔出しのきっかけとなった記事

与那覇 流れが変わるきっかけになったのは、2020年9月に取材したボッシュ株式会社様の記事です。クライアントでもある電動工具事業部の事業部長にお話を伺い、顔出し・実名出しで掲載いただきました。このときは社外の方だから実現したのですが、組織の空気を変えていくチャンスにつながったのだと思います。まさに「制約は機会」でしたね。

──ひと昔前のマスメディアの感覚では“インターネットは顔出しNG”が一般的でしたが、おそらく社内の「コミュニケーションイメージ」が変わったんでしょうね。カインズは小売業。店頭の接客で毎日顔を合わせているように、ネット上でも顔を出すコミュニケーションができるようになったわけですか?

与那覇 はい。おかげさまで、そうなっていきました。

——世の中にはオウンドメディアを「100%SEO目的」に据えている企業も、トヨタ自動車のオウンドメディア「トヨタイムズ」のように企業文化を伝えるメディアとして活用されることもありますが……。

与那覇 はい。「となりのカインズさん」は、その両方のバランスが取れているのかな、と思っています。

効果測定に欠かせない「定性データ」の重要性

──効果の測定については、どのように行っているのでしょうか?

オウンドメディアの目的は様々ある

与那覇 「オウンドメディアは玉虫色」といわれるように、目的も幅広く、さまざまな文脈で効果を語ることができます。効果測定には私たちも日々悩んでいるんですよ。

PV数は追いかけますが、純粋な数字では語られない「定性的な側面」も見ていく必要があると思います。データは取りますが、同時に捨てています。つまり結果の数字自体に、一喜一憂はしません。

その代わり「目標1万PVだったのに、結果は8500PVだった」という事実を見た上で「なぜだろう?」と仮説検証を行います。こういうひとにコンテンツを届けたいと仮説を立てたのならば、届かなかったのはなぜか。そこを検証することが、大切ですね。

また、ブックマーク数やXでのコメントなども含めた定性的な情報を、積極的に拾って測定するようにしています。

たとえば、PV数が伸びないわりに、お客様からのリアルな声がメールで届いていたり、SNS上で反応があったりすることがあります。これは「良いPV」。記事によっては公開後に、店頭の商品売上が動くこともあります。

反対に「悪いPV」として考えられるのは、炎上です。また、PV数が高い割に内容が薄い記事や、どこかで読んだことがあるような記事も悪いPVですね。PV数はすごい勢いで伸びているのに、SNS上では文脈で語られていない状態も好ましくないと感じます。

このように、数字が直接語ってくれない人の感情や直感、創造性、没頭力をおろそかにすると、オウンドメディアは成功しないのではないでしょうか。

──数字と、数字が意味するところを見極めながら、運用を続けていくことが大切なのですね。

与那覇 そうですね。オウンドメディアにおいては「変数と定数」を見極めて運用すべきです。

「変数」とは「変えられる数」。コンテンツ数、記事のタイトル案、公開日時など「努力と行動で変えることができる数」を指します。

「定数」はその逆で、何も変えられない部分。変えられないので、無理に動かそうとすると身動きが取れなくなります。

いまでも「オウンドメディアをさらに前進させるとしたら、どのようなアクションができるだろう?」と日々、考え続けていますね。

取材インタビューから体験記事、タイアップまで

──“これぞカインズ”という記事を、いくつかご紹介いただけますか?

与那覇 「となりのカインズさん」では、多彩なクリエイターさんやライターさんからも企画会議でアイデアをいただき、コンテンツを作っています。そうした中で注目を集めた記事が、こちら。ホームセンターの材料を使ってやってみた系記事です。

あのタイプミス「よろしく尾根ギアします」を実現したいの記事

与那覇 PCで「よろしくお願いします」と打ちたいところを、タイプミスで「よろしく尾根ギアします」と変換されてしまうことがありますよね。その「尾根ギア」の状態を再現しています(再現動画)。

こうしたおもしろいコンテンツは、担当者が「燃えている」ときに生まれます。やはりお客様が見て、楽しめるかどうか。おもしろいと感じてもらえるかどうかが大切ですね。

クリエイターさんやライターさんも、広い意味では私たちのお客様。そのお客様が「こういうコンテンツを作って、ホームセンターで遊び倒したい」と言ってくれるわけです。それを否定するのは、むしろ失礼。純粋に遊び倒していただこうと願う気持ちが根底にあります。

メダカの記事

与那覇 こちらのメダカの記事は、カインズで扱っている肥料を倉庫いっぱいに並べている、メダカ専門店を取材しました。カインズには専門店や職人さんなど、本当にいろいろなお客様がいらっしゃいます。貴重なお話を伺うことができたうえ、記事化できた点も魅力でしたね。

──売上創出を目的とした記事もあるのでしょうか?

コクヨ「ドットライナー」持ち込み記事

与那覇 はい。売上創出につながるケースとしては、コクヨ株式会社様とのタイアップ記事がありました。

コクヨの商品に「ドットライナー」というテープのりがあります。商品数が20種類以上もあるのですが「なぜこんなに種類があるかを説明させてほしい」とご提案いただきました。コクヨ担当者の方が自ら執筆し、記事を掲載したところ売上が増加。紹介した商品の売上が伸びる現象は、ほかでもよく見られます。

──「作っている人が楽しんでいるメディアだ」と、伝わってきますよね。だから成果が出ているのではないでしょうか?

与那覇 そうかもしれません。いまやAIが記事を書ける時代です。書く人が楽しんでいるかどうかは、非常に重要ですね。そういう意味では「となりのカインズさん」は他社にはマネできない「遊び倒す」というテーマがあります。実際、AIにはできないフィジカルが必要なコンテンツばかり。作り手が真面目に取り組み、体験している「楽しさ」が伝わっている自信はあります。

オウンドメディアのコンセプトは「羅針盤」になる

──今後はどのような思いで、オウンドメディアの運営に取り組んでいこうとお考えですか?

与那覇 コンセプトである「ホームセンターで遊び倒す」を、本当の意味で遊び尽くし、社内外の目的をしっかりと達成していくつもりです。オウンドメディアは手段になりがちですが、改めて当初の目的である「社内のマインドの変化」と「ファン創出・売上拡大」を目指します。

また、1日1本は新たな記事を公開したいですね。これからも外部ライターさんと社員で協力しながら記事を作成し、クオリティーを維持しながら毎日更新していきます。

──これからオウンドメディアを始める担当者の「最初の一歩」としては、何から始めればよいでしょうか?

与那覇 「となりのカインズさん」が成功しているのは「ホームセンターを遊び倒す」というコンセプトがあるからだと思っています。

社内・社外を問わず、コンセプトを伝えることで、作り手の視点が広がります。もちろんコンセプトは変わってもかまいません。当社も、再構築しながら試行錯誤を続けてきました。

コンセプトは羅針盤です。オウンドメディア運用に迷ったときも、目的に向かう道を示してくれます。まずはコンセプトをしっかり定めることから始めてみてはいかがでしょうか?

——本日はありがとうございました。

(敬称略)

▼この記事のもとになったイベントのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

登壇者プロフィール

株式会社カインズ マーケティング本部 メディア戦略部
与那覇 一史さん

1990年1月生まれ。沖縄県出身。美術専門出版社の営業職を経て、株式会社キュービックでメディア運用に従事。その後、体験ギフトのソウ・エクスペリエンス株式会社でECサイトのグロースを経験。現在はメダカ、ミジンコ、SEO、縄文時代、家庭菜園、読書、筋トレを相棒に「おもしろいコンテンツ」を模索している。人生のテーマは観察と分析と実行。

モデレーター

徳力 基彦
noteプロデューサー

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Interviewed by 徳力基彦 text by 林美夢